第六章:騎士決闘/01
第六章:騎士決闘
風見宗悟とミレーヌ・フランクールの二人が蓬莱島にやって来て、そしてイーグレット隊が結成されたから丁度一週間後の、土曜日のことだ。
アリサたちイーグレット隊の四人は、例によって要に地下区画のブリーフィング・ルームに集められていた。部屋の電灯の後ろ半分が消されて薄暗い部屋の中、各々適当な椅子に座っている四人の前、壇上に立っているのはやはり要と、そしていつも通り彼の補佐役としてレーア・エーデルシュタインの姿もある。
そんなブリーフィング・ルームの中、電灯の灯りに照らされる壇上で、イーグレット隊の面々に対し要は開口一番からこんな風にド直球な一言を告げていた。
「――――模擬戦をしてみないか?」
「へえ、良いじゃん」
要の提案に真っ先に反応し、ニヤリとして好感触を示したのは宗悟だ。腕組みをする彼の横で、ミレーヌも「悪くないね」と同じような反応を示している。
「一対一でのACM訓練だ。まあ、つまりはいつも通りの訓練だな。……そっちの二人はやる気みたいだが、アリサくんたちはどうだ?」
「新入りの実力を直に確かめておくってのも、悪くないかもね。色々と一段落して落ち着いてきた頃だし、良い機会だわ。アタシは賛成。翔一、アンタはどう?」
「アリサがやる気なら、僕も異存はないよ」
問われたアリサと翔一の二人も揃って了承すると、要は「決まりだな」と満足げに笑む。
「今まさにアリサくんが言ってくれたように、互いの実力を知っておくのは良いことだ。それに、ESP同士のACMは中々経験できることじゃない。経験豊富なアリサくんはさておき……翔一くんにとっては、特に有意義な時間になると俺は思う」
「……司令、ここからは私が」
要がひとしきり言い終えた後で、今まで一歩引いたところに控えていたレーアがスッと前に出てきた。そんな彼女に要は「ああ、頼むよレーアくん」と言って、彼女と入れ替わるように一歩後ろに引き下がる。
すると、レーアは壇上のド真ん中に立ち。一度アリサたち四人を軽く見渡してから、感情の欠片も見受けられないような、何処か人形じみた無表情のまま――――その無表情と違わない、まるで抑揚のない感情ゼロの平坦にして冷え切った声音で、淡々とACM訓練の説明を始めた。
「…………メイヤード大尉、及び風見少尉の機体に関しましては、既に南軍曹へ通達し準備を進めています。お二方とも装備内容は共通で、一番パイロン、及び七番パイロンにAAM‐01が一発ずつ。二番及び六番パイロンにAAM‐02を、こちらも一発ずつ。二発と二発で、合計四発のキャプティブ弾を搭載。それ以外のパイロンは全て撤去した状態の、通常通りのYSF‐2/A、ACM訓練用装備・パターンAとなっています」
淡々とした口調で、レーアが訓練に際して機体が搭載する装備内容を説明していくのを、翔一も含めた四人は真剣な眼差しで、黙ったまま静かに耳を傾けていた。
ちなみに注釈だが――――キャプティブ弾というのは、訓練用のミサイルを指す。統合軍の物はミサイル全体が青く塗装をされて分かりやすくなっている仕様で、弾頭の誘導用シーカーだけが実弾と共通の本物。それ以外は重量を本物と合わせてあるだけの、短ある飛ばないハリボテだ。今回の場合はそのキャプティブ弾、短距離射程のAAM‐01が二発に、中距離射程のAAM‐02が二発こっきりの搭載と、割に軽装なセッティングになっているらしい。
――――閑話休題。
とにもかくにも、そういうことらしい。レーアは四人のそれぞれの反応を視界の中に収めつつ、しかし一切反応を示さないまま。アイスブルーの瞳で皆の顔を一瞥することもなく、やはり淡々とした口調で説明を続けていった。
「状況も通常ACM訓練と同様に、目視距離での格闘戦が主となります。両機ヘッドオンの状態から、すれ違った時点で訓練開始。こちらも通常通り、ACM訓練モードを使用し……データリンクでのリアルタイム状況判断に基づき、撃墜と被弾状況を判定します。訓練時間はおよそ一時間。時間の許す限り、両機には出来る限り模擬戦闘を継続して頂くことになります」
――――ということのようだ。
レーアは確かに無表情で無感情で、そして何を考えているのか全く分からない……取っつきにくいどころか、取り付く島もないといった雰囲気の少女であるが。しかしこういった状況説明などは簡潔で分かりやすいものなので、聴き手側としては本当に助かる。それは戦闘時の戦術管制も同様で、彼女はいつもこの調子で冷静さを崩さないからこそ――――実際に現場で戦う身としては、これ以上なく信頼できるのだ。指揮統率役が冷静であればあるほど、こちらは戦いに集中できるというものだ。
「訓練開始は今から一時間後だ。一応、管制はこの基地から俺とレーアくんの二人で行う。ただの模擬戦だ、わざわざ≪プロメテウス≫を上げるまでもない。基地のレーダーで十分に対応出来る」
と、レーアがそこまで説明したところで、後ろで腕組みをしていた要が再び口を開く。
「先も言った通り、これはお互いの実力を知る良い機会だ。残念ながら現状、イーグレット隊にはまだ君らのゴーストが二機しか間に合っていないのが現状だが……それでも、君らは互いに背中を預け合う身だ。たった二機の飛行隊といえども、互いの実力を知っておく意義は十二分にあると俺は考えている。君ら四人にとっても、この訓練が有意義なものであることを期待する。
――――さてと、以上で説明すべきことは全て終わった。堅苦しいブリーフィングはこの辺りでお開きにするか」
ニッと小さく笑んだ要のそんな締め括りの言葉を最後として、これより始まる模擬戦に関してのブリーフィングはひとまず終了となった。
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