第十六章:それでも、君と飛べるのなら/03
――――桐山翔一、コールサイン・スピアー1。
皆がその名を聞いた瞬間、データリンクで彼のロックオン情報が共有された途端。翔一は≪ミーティア≫が搭載していた長距離射程のAAM‐03を四発全て発射していた。同時に、二〇発を吊している中射程のAAM‐02も全てだ。
その数、合計二四発。それだけのミサイルがたった一機から同時に発射される光景は、まさに壮観という他にない。物凄い数のミサイルがうっすらと白い尾を引きながら、多重ロックオンにより全て別の標的目掛けて飛翔していく様は、本当に圧巻の一言だった。
その一斉射撃で、翔一は被撃墜の危機に陥っていたアリサ機を見事に救い。そして彼女やソニアの周りを囲んでいたモスキート・タイプの別働隊の九割方と……そして、ついでに榎本たちクロウ隊をタコ殴りにしていた敵の本隊にもいくらかのダメージを与えたのだ。
「……待たせてすまない、アリサ」
二四発のミサイルを一気に撃ち尽くし、身軽になった≪ミーティア≫で急上昇しながら……翔一がアリサにそっと囁きかける。至極安堵した表情で、少なくとも……彼にとっては最愛である、彼女に対して。
――――あの時、確かにアリサは撃墜される寸前だった。
やはり、あの直感は間違っていなかったのだ。アリサを独りで行かせては、もう二度と彼女に逢えなくなってしまうという、あの直感は。
もしかしたらあの感覚も、自分が持ち合わせている予知能力の一種なのかもしれない。
だとしたら……今だけは、心の底から感謝したい。ギリギリのところで彼女を助けられた、己の特異な能力に。彼女を最悪の未来から……直前まで差し迫っていた死の運命から、死神の魔の手から逃がしてやることが出来た、自分の奇妙な能力に。
『ちょっ、翔一……!? アンタ何考えてんのよ、この馬鹿っ!』
そうやって翔一が囁きかければ、アリサは彼が彼だと気が付き……安堵したような、でも怒っているような、困惑しているような。そんな複雑な表情で、翔一に対して声を荒げる。
そんな声音も、複雑な色をした彼女の表情も。再び聴けた、再び見られた今となっては……あの嫌な予感を、最悪の未来を乗り越えられた今となっては、ただただ愛おしい。
「文句なら後で幾らでも聞く! それより、今は……!」
翔一はそんな風な彼女に……彼女の≪グレイ・ゴースト≫の傍に合流し、軽く編隊を組みながら言葉を返す。今は説明している暇がないと、暗にそう告げるかのように。
『ああもう……! 上がって来ちゃった以上、どうなっても知らないからね!?』
「元より覚悟の上だ! 来るぞ……アリサ!」
『分かってる! 遅れないでよ!?』
「努力してみせるさ……!」
とにもかくにも、来てしまった以上は共に戦う他にない。
アリサはどうやらそう思ってくれたのか、ひとまず翔一と肩を並べて戦うことを了承し。彼と即席のエレメントを組みつつ、周囲に残った僅かなモスキート・タイプに対して二人で飛びかかっていく。
といっても、主にアリサが機動で上手く敵機を追い込み……そうして隙が出来たところに、翔一がミサイルをブチ込むといった感じだ。まさに
『おっ、おっおっおっ? マジかよ、白馬の王子様じゃーん! まさに騎兵隊の参上ってか、イカすねえ!』
そんな二人の戦いぶりを横目に、生駒が至極楽しそうな、ご機嫌な声で軽口を叩く。
しかしその後で生駒は、翔一の機体にやたら見覚えがあることに気が付くと……。唖然とした彼は思わず『……っていうかちょっと待てよ、アレってひょっとして、朔也の予備機じゃねーの?』なんてことも口走っていた。
『……なんだと?』渦中の榎本が、ピクリと眉を動かして反応する。
『いやいや、だってアレ見ろよアレ。尾翼に俺たちのマークあるし、お前のと同じ黄色と黒のやったら目立つ塗装入ってるし。いやアレぜってー朔也の予備機だって。間違いない間違いない。うん朔也の予備機だわアレ』
『……ヒトの予備機を勝手に使っての無断出撃。これは……後で大目玉ね』
大変な真顔で生駒がペラペラと喋り、その後でソニアが相変わらずの冷え切った声で呟く。
ちなみにソニアだが、翔一がアリサとエレメントを組んだことで、あの一体に居た別働隊は二機で殲滅できると判断。それよりも未だ敵の大多数が健在な本隊をどうにかすべきと考えたようで、すぐさま離脱し。アリサ機の傍から離れ、榎本たちクロウ隊の方に戻ってきていた。
『俺の機体を勝手に使ったのは許せん。……が、彼が来たコトで状況が一気にイーブンにまで傾いたのも事実だ。この機を逃すな、一気に畳み掛けるぞ。クロウ全機、気合いを入れろ。
『クロウ2、
『クロウ6、こちらも了解。……見せて貰うわ、彼がどれだけ踊れるのか』
榎本の号令とともに、生駒にソニア、そして十二番機と生き残っていたファルコンクロウ隊の全機が集結。再び編隊を組み直した後で
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