第六章:この蒼穹(そら)の為に/02

 南の持ってきた牽引車とファントムの主脚とを連結し、重い機体をズルズルと引っ張りながら格納庫を出て。そうして翔一はアリサや南、そして年代物のファントムとともに、つい先刻乗って降りてきた大きなエレヴェーターに乗り込み、地上を目指しゆっくりと上がっていく。

 大きな、まるで床丸ごとが動いているかのようなエレヴェーターが地上に向けて上昇している最中、相も変わらぬオレンジ色のツナギを着込んだ南は傍らの牽引車に寄りかかっていて。そして同じように牽引車に背中を預けるアリサのすぐ隣に立つ翔一は、ぼうっと目の前のファントムを見上げていた。

「……本当に、特撮の秘密基地みたいだ」

 と、ファントムを見上げる翔一が小さく独り言を呟いていると。するとそんな彼の横では、南とアリサが何やら言い合っていた。

「なあアリサちゃんよ、頼むからぜってー無茶な飛ばし方はしないでくれよな?」

「分かってるわよ、そんなこと。あくまで相手は骨董品のオンボロ、多少は気を遣って飛ばすに決まってるじゃないの」

「おいおい……ホントかよ」

「何よ、アタシのこと疑ってんの?」

「当たりめーだろうが。自分の馬鹿みてえな飛ばし方思い出してみろよ」

「……なあ南、さっきから一体何のことだ?」

 別に険悪な感じというワケではないものの、しかし翔一も流石に二人の会話の意図が気になってきて。ふとした折にそう南に問うてみれば、彼は「聞いてくれよ、あんちゃん」と、まるで場末の居酒屋で大将相手に愚痴を零すみたいな調子で、アリサと交わしていた会話の意味するところを翔一に説明し始める。

「アリサちゃんな、確かにウデはスゲえんだよ。間違いなくエースだぜ、それはホントだ。マジでその点に関しては俺も認めてる。あの撃墜数五〇〇機オーヴァー、天下に名高いスーパーエース二人組……『マルセイユの女神』ほどじゃねえけどよ。まあアイツらはあらゆる意味で規格外だ。とにかく……腕前に関してはマジでスゲえんだ、アリサちゃんは」

 そう言った後で「でもな」と南は続けて、更にこんな一言を口走る。

「…………ものすっげえ荒っぽいんだよ、アリサちゃんの飛ばし方は」

「荒っぽい……?」

「んだんだ」参った風に肩を竦めながら、南が頷く。「トンデモねえ飛ばし方しやがんだ。無茶苦茶にも程があるぜ。空間戦闘機の超頑丈なプラズマジェットエンジン壊す奴なんざ、俺はアリサちゃん以外に聞いたことねえ」

「戦闘中なの、仕方ないでしょう!?」

 という風に南がやれやれと肩を竦めながら、本当に愚痴でも零すかのように翔一に言っていれば。流石に言われっ放しというのも癪に障ったのか、アリサが反論するかのように語気を荒げて南に言い返す。

 が、当の南本人の反応といえば「事実だろ? 現にアリサちゃんのゴースト、エンジン部分のオーヴァー・ホールの頻度ヤベえじゃねーかよ」という具合で。どうやらそれが事実であるだけに言い返せないらしく、アリサは「うぐ……」と、まさにぐうの音も出ないといった感じだった。

「まあ何にせよ、ファントムだけは壊さんでくれよな。ただでさえ予備パーツが少ねえんだ、この爺さんはよ」

 やれやれと大きく肩を竦めながら南がそう言っている間にも、エレヴェーターは上昇しきっていて。遠くに見える地上の夕焼け空を見上げながら、再び南が乗り込んだ牽引車に引っ張られ、ファントムが年代物の銀翼を大空の下に晒していく。ギラつく茜色の太陽の下へ、負けないぐらいにギラついた……その翼の上で誇らしく煌めく赤い一等星、真っ赤な日の丸印を。

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