23年間の記録

紗凪

第1話 さようならお姉ちゃん

私が今まで生きてきた記録をここに残そうと思う。


私には自慢の姉と自慢の両親がいた。姉は英語が得意で頭が良かった。

父は大工で子供想いだった。母は面倒見が良くて優しい人だった。

私はこの幸せな時がずっと続くと思ってた。


ある夏の日のこと姉が出ていくのを見た。


その日は姉と喧嘩をした日だった。

原因は愛犬を突き飛ばしたから。

私は姉に嫉妬していたこともあり日ごろからたまっていた不満をぶつけてしまった。

愛犬が可哀想と言うよりはお前なんかいなければいいのにと思った。

それを口に出してしまった日だった。


その日の午後家に電話がかかってきた。私は悪い予感がした。

なぜなら、ここ最近の姉の様子がおかしいことを幼いながらに感じていたからだった。

お母さんに

「警察からかもしれない。」

と言ったのを今でもよく覚えている。母は驚いた様子で私を見た。電話に出てみると相手はやっぱり警察だった。


姉が歩道橋の上から飛び降りたと。

しっかり者の姉は両親に心配をかけまいと自分の名前と電話番号を名乗ったらしい。そして意識を失ったのだと聞いた。


私は驚きはしなかったがショックだった。その事実を受け入れる事は到底できずまだ後悔している。


あの時どこに行くのと声をかけてさえいれば、何かが違ったんじゃないかお前なんかいなくなればいいのに。

そんなことさえ言わなければ、あの日が最後になんてならなかったんじゃないか。

考えれば考えるほど自分のした罪の重さに苦しんだ。


それからの毎日は重く苦しく辛い日々の連続だった。両親は傷心しきっていて特に母は自分を責めるばかりで抜け殻の様になっていた。


それが私が10歳の時の事だった。


私は毎日暗い顔して学校に通っていたと思う。

無理やりに笑顔を浮かべて。姉が自殺した事は、ニュースになった事もありちょっとした噂になっていた。


友達と遊んでいると先輩に

「お姉ちゃん自殺したんでしょ?」

と聞かれた。

なんて答えていいのか分からず黙ってしまった。とてもショックだった。


その時の私はとても姉を恨んでいたと思う。姉が自殺しなければ私はこういう思いをしなくて済んだのに姉を責めることで平常心を保っていた。

先に逝ってしまった悲しみと怒りを耐える事しか出来なかった。


当然そのことを親に相談することもできず小学4年生の私は精一杯生きることしかできなかった。

なんだか弱音を吐くことも許されないような状態だったように思う。


ただ姉ばっかりじゃなくて親に構って欲しかっただけなのに入院してばかりの母に私を見て欲しかっただけなのにそれだけなのに姉が病気だということは大人になってから知った。


テストで100点取って帰った日も、習字で入賞した日も、学校で嬉しい事があって伝えたくても、あの時は一人ぼっちだった。


家族なのに、私のお母さん、お父さんでもあるのに過呼吸起こしてばかりの姉に取られたみたいで寂しかった。


嫌な事があっても我慢するしかなかった。我儘だって言いたかった。

それだけだった。

消えちゃえと思ったら本当に消えてしまった。


今さら後悔しても遅いのに姉さえいなくなれば構ってもらえると思っていた私がバカだった。


姉が病気で可笑しくなって毎日家に物が飛んだとしても母が苦しみ鬱病になってもそれで怒りが私にぶつけられてもそれでもいつか笑える日が来るからって生きていて欲しかった。

痛みが消えるわけではないけれど。

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