第九話 吸血鬼様、挑戦される

葉高体育館。

意地でも学ランを着続ける大柄な男子生徒が握力計を握っている。


「やばい!」


握力 105kg。


「すみません。これ、壊れているんですけど」


大柄な男こと、大神くんは測定記録している教師へ申し出る。

何を食べたらあんな握力になるのか。

いや、狼男だからか。


握力計をぐっと握る。


握力 55kg。


普通、これくらいだろう。


「これはゴリラじゃない?」


かきピーが私の記録を見て呆れている。

女性の平均握力は25~28kg。

ちょっとオーバーしているくらいである。


「じゃあ、次、私ね」


かきピーがぐっと力を入れる。


握力 21kg。


知っている。

わざとだ。


「やっぱり、全然だめー。記録でなかったよ」


そんな台詞と共に他の女子グループへ向かっていく。

かきピーは必ずは平均を下回るように調整している。

あざとい。だが、可愛い。


「ははは、よっシー。先日は無様な姿をさらしてしまったな」


先日、きっと小5ハンター乃絵瑠に襲われたときの事だろう。

また面倒臭くなってきた。


「俺は吸血鬼、しかもただの吸血鬼ではない。ヴァンパイアロードの力を思い知れ」


変なポーズを取りながらこちらを挑発してくる。

ただの吸血鬼でないことは知ってる。

最弱の吸血鬼だと。


「見ていろ! この機械を握ればよいのだろう?」


吸血鬼は本気で力を入れて握る。

顔が真っ赤になるほど力を込めている。


握力10kg。


それは流石にない。

日常生活に支障をきたす、どころの話ではない、

今までどうやって生きていけたのか、不思議でならない。


「どうだ、あきたこまち10キロと同等の威力だぞ」


重さが同じだから同じでしょうね。

しかも、威力って何?


「ふふふ、この調子ならよっシーに負けることはないな!」


10kgの米と張り合う吸血鬼がなにか言っている。

食べることが出来る時点で米が数段優れている。

比較すること自体がおこがましい。


「仕方がない。この勝負、受けてやろう」


クソ雑魚吸血鬼など、ものの数ではない。

ここは実力差を見せ付ける必要があるだろう。

吸血鬼が酷い記録出すことは想像に難くない。


屋外測定

吸血鬼が参加できないので、ノーカウント。



垂直飛び

「見よよっシー! 吸血鬼に飛行能力で挑もうなど100年早い」


流石は吸血鬼、確かに浮遊している。

だが、地面から10cmが限界らしい。

普通にジャンプしたほうがいいのでは?


吸血鬼 10cm

私 58cm



反復横飛び

「はぁ、はぁ、はぁ、まだやらないと駄目なのか?」


吸血鬼は反復横飛びの途中で脱落。

20秒間全力を出し続けることは難しいだろう。

脱落者はほとんど見たことはないがな!


吸血鬼 リタイア

私 48回



上体起こし

「だから、もうこういうのは止めてもらえないか!」


吸血鬼は反復横飛びで疲れているので、ほとんどできていない。

おかしい、ここの測定は持久力ではないはず。

どちらかといえば、瞬発力を測定するものでは?


吸血鬼 2回

私 30回



伏臥上体そらし

「何をやっているのだ、よっシー。変な格好をして何かの儀式なのか?」


通称、海老反り。

実は最近の測定では廃止されているらしい。

見た目に反して結構きついのだが。


吸血鬼 10cm

私 45cm




結果

やはり、クソ雑魚吸血鬼などに負けるような要素はない。

圧倒的大差で私の勝ちだ。


「どうだ、吸血鬼。身の程を知ったほうがいい」


吸血鬼は疲れきって灰になりかけている。

もう、言葉を返す力も残っていないようだ。

私が勝利の余韻に浸っているとかきピーが寄ってくる。


「よっシー、ウィル君と乳繰り合うのは良いけど、男子と女子は別々の順番で回るんだから、先生怒ってるよ」


あ……


この後、滅茶苦茶怒られました。

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