第七話 吸血鬼様、憧れる 後編

ラーメンをめぐる旅の果て。

伝説と詠われた「三番亭」その目の前に私たち4人はいる。


「うわっ! きつい! あ、何だか目も痛くなってきた」


1人こんな奴がいる。

これが今回の発起人である。

にんにくが苦手であることを承知でここまで来て、この様である。

大体、オチが読める。

なんらかの流れで、吸血鬼がにんにく入りのラーメンを食べて酷い目に遭う。

知ってる。


「大神くん、例のやつを」

「ウィル殿、ごめんなさい」


私の命により、大神くんは愛用のアイマスクを吸血鬼に着用する。

目の痛みから逃れた吸血鬼が静かになる。

ついに4人は「三番亭」へと足を踏み入れる。

目隠ししてハンカチで口元を隠す吸血鬼を、学ラン大男と女生徒2人が引き連れて入店する。

文章にしてもおぞましい光景である。


「へい! らっしゃい!」


暖簾をくぐると、テンプレ通りの挨拶をしてくれた。

期待を裏切らない、安定した店の証拠。

ここはイケてる店に違いない。間違いない。


「おっと、何だい? 新しい新しいプレイかい? そうのいつもはお断りしてるんだけど、今日だけは特別だぜ!」


一瞬で怪しい店だと確信に至った。

理解できる店、特別感を出す店と失敗する系の店だ。


「この子、にんにくが駄目なんです。そのくせ空気を読まずにラーメン屋に来た挙句、こうして醜態をさらしてしまっているんです。少し頭がおかしい部分がありますが問題ないです」


かきピー、お前も空気読もう。

流石にそれは悪口レベルだ。


「要約すると、にんにくは苦手なので抜いたラーメンをくれませんか?」


無駄に不良要素を詰め込んだ大神くん。

実は一番の常識人。

言葉を発せない程に弱った吸血鬼を椅子に縛りつけて皆席に着く。

そして、各々が注文をしていく。


「注文良いですか? 俺にはしょうゆとんこつを。こちらには塩ラーメン、にんにく抜きで」


大神くんが本当に頼もしい。

彼だけでよかったな。


「えーと、この野菜ましましスペシャルチャーシューとんこつラーメン大盛りに、トッピングを追いチャーシューと煮卵とのりと追加メンマともやしで、麺は細麺バリカタで」


人の奢りと思いやがって……。

かきピーをつれてきたのは失敗だった。


ついに私の番か。


「にんにくしょうゆラーメン」


何故、この「三番亭」を選んだのか。

それはこの店ならではのメニュー。

噂程度しか聞いていないが、口にするのに値するだろうか。


「お嬢さん、わかってるね! いつもはこのメニュー、一見さんお断りなんだが、今日は特別だぜ」


この大将何かイラッとする。

だが、大将の人格とラーメンの味は関係ないはずだ。



注文を受けた大将はカウンター奥の厨房へと去っていく。

これで後は待つだけだ。


「ところで、よっシー。ウィル君とはいつから付き合っているの?」


こんな話、前にもやった。

しかも、ファーストフード店に友達と入って気軽にするような恋バナじゃないか。

よく考えてみれば、今の状況と大して変わらないな。


「あ、俺もそれ気になってました」


君もか!

強面の割りにそういうの好きだな。

まぁ、アニメとか好きだし、そういう話に敏感なのか。


「前にも言ったけど、別にそういうのじゃない。ただのお隣さんよ」


露骨につまらなさそうな顔をするかきピーにイラッとする。

この手の話題はもうやったので話を逸らすことにした。


「かきピーこそ、気になる男子いるでしょ」

「え? いない」


3秒も逸らせなかった。

こんな展開も想像しなかった訳でもない。

次のプランだ!


「大神くんはどう?」

「え? そうですね。マジルタのケーニッヒスちゃんみたいな娘ですね。ツンデレのようで、実はデレデレなんですが、よく見てみるとヤンデレも混じっているその絶妙なバランスがとてもいいと思います」


すっごい早口で言ってる。

時間にして1.5秒くらい。

その愛が怖い。


「へい、お待ち!」


早い!

話の都合で尺がないとはいえ、流石に早い。


「こちらが、しょうゆとんこつ。こちらが塩ラーメンにんにく抜き」


黒塗りのどんぶりに濃い目のとんこつスープ、透明な塩スープがそれぞれ映える。

チャーシューとメンマになるとが添えられとてもおいしそうだ。

正直、この大将のことだから色物が出てくると思っていた。


「こちらが野菜ましま(省略)」


先ほどのどんぶりより大きいにもかかわらず、野菜がこれでもかという程山盛りになっている。

見ただけで、どれだけ欲張ったのかわかる。

人の奢りだと思いやがって、全部残さず食えよ。


「こちらがにんにくしょうゆラーメンだ!」


通常サイズのどんぶりだが、スープがない。

代わりにおろしにんにくが入っている。

にんにくペーストと麺が混ざり合っているだけ。

申し訳程度に醤油がかけてある。


「だから言っただろ、一見さんお断りだって」


ノリが同じだったので、まさかこんなことになるとは思わなかった。

確かにこの店ならではの一品だよ!

ていうか、臭い! そして、目痛い!


「俺はよっシーの事、凄いと思っている」


この流れでさっきの続きかよ!

もう、話題変わってるよ!


「いつも俺に無関心な風をしているが、実は面倒見がよく色々と俺を助けてくれる」


突然の私上げ。

予想外の反応に少し困る。


「そんなよっシーに俺は憧れている」


何か言っちゃったよ!

恥ずかしい!

そんな風に想われる程のことをしていないのがさらに恥ずかしい!

その台詞自体も恥ずかしい!

2人からの視線が痛い!

この恥ずかしさを紛らわす為、とっさにラーメンを口に含む。


「このラーメン凄い!」


普通ににんにくを齧るより酷い!

涙目で叫んでいた。

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