牢屋(デュノア視点)

 イレーザが収監されている地下牢は一言で言うならば、迷路そのものであった。 秘書が先導してくれているから迷ってはいないが、歩いてきた道を1人で戻れるかと問われたら自信が無い。


「到着しました。 この先の突き当りの牢にいますので、どうぞご自由になされて下さい」


「君はついては来ないのか?」


「はい、私はここから先へ行く権限を持ち合わせておりませんので、ここでお待ちしております。 デュノア様は、どうぞご自由にお進みください」


 そう言われ薄明りを頼りに、歩み続けると、イレーザはいた。 不思議と牢に、カギはかかっておらず中に入る。


『お久しぶりですイレーザ様』そう声を掛けようとしたときに、彼女の異変に気が付いた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 久しぶりに見た幼馴染イレーザの姿は、俯き膝を抱えて小さく消え入りそうな声で何かに謝っていた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 イレーザは顔を上げるどころか、声に反応も示さずに、ひたすら何かに対して謝り続ける。 あんなにも明るく活発だった少女が、こんなにもなるほどに心を病んでしまったと知って、とっさに彼女を抱きしめる。


「イレーザ様、申し訳ありませんでした。 あの日、自分の欲望に耐えられずアナタを抱いた日から、私は、女性を見ると、自分の欲望が暴れだす気がして、女性といる事が怖くなり、ふさぎ込んでしまいました。 そんな中で、アナタは私の為に色々としてくれたことは知っています。 この国と同盟を結ぶ話が出たら、この国の人工的に子を生す技術で私の立場が危ういと考え、即座に意見に反論してくれたことも知っています。」


 イレーザは呼びかけに反応を示さない。


「アナタはきっと怒るでしょうが私はこの国に私たちの国を売りました。 ですが、許してほしい。 この国の王である薬師寺様が、どのような政策をとるのかは分かりませんが現在、我が国は非常に不安定な状態です。 掟により、まだ同族殺しは行われていませんが、このまま混乱が広がると、死者が必ず出ます。 そして、一人死者が出れば火が広がる様に殺し合いが始まり、本格的に国が滅びの道をたどってしまいかねません」


 抱きしめても反応を示さず、まるで壊れてしまったレコーダーの様に謝る事を止めないイレーザ。


「私は、アナタが笑顔で帰ってこれるように国の混乱を収めに行きます。 アナタが罪を償ったその日の為に、今まで以上に日々精進して生きてまいります。 そして私が、国を治めたら、どうか結婚してほしい。 私は、アナタの為にここまで来たんだ」


 いぜんイレーザは、反応を示すことなく、腕の中で宙を眺めて謝り続ける。 彼女に言葉が届かないと知ったため。 自然と目から涙が流れた。


「それではイレーザ私は行きます」


 ひとしきり泣いた後で、イレーザに言葉をかける。 反応が無いイレーザに背を向けて、俺は、振り返らずにその場を後にした。

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