傍観者(薬師寺視点)
「若いな、周りが全く見えていない」
秘書から、デュノアとイレーザの様子が、映し出された映像を見て、薬師寺は、契約に必要な書類を作成しながら呟いた。
「だが、デュノア殿が、周囲が見えていないのはいただけないな。 いや、だが、お陰で私は、計画通りに物事を進めることができたのだから、愚かと蔑むだけではなく、むしろ感謝しなくてはならないのか?」
何故国内で暴動が起きたのか? 何故自分の言う事を聞く兵がいなくなったのか? 何故デイリ王が、私の国と無条件に同盟を素直に結ぼうとしたのか? 無い頭でも、必死に考えれば分かりそうなものだが、それすらを放棄して行動するのは、私から言わせれば、自己満足以外の何物でもない。
人々が困っているから救いたい。 実に結構。 本当に自分に酔っている者は、実に滑稽で扱いやすくて困る。
「まあ、彼の場合は、冷静な判断ができないように、少しだけ小細工をしたが、それにしたって、こうも簡単に事が運ぶのは、若さも関係してるのであろう。 私では、とてもマネできん」
デュノアがイレーザに抱き着き涙を流すシーンを見て、思わずつぶやいた。 このような感情的な行動を少しだけだが、うらやましく思ってしまうのも、私が王となり色々と経験して心を動かされることが、無くなってしまったからだろう。
「もう、私には、そのような感情は、残っていないからな」
年寄りが昔を思い出すかのように、しみじみと言葉にだす。
「いかん、いかん。 今は、昔を懐かしんでいる場合ではない。 さっさと契約を結ぶための書類を作成しなければな。 同盟を結んだらデュノア殿をドワーフの国で英雄に仕立て上げよう。 全国民が支持してくれるような根回しも必要だ。 デュノア殿に、逆らう事は愚かな事とドワーフ国民全員に認識させることで、反論する者を無くし、そして同盟国を緩やかに我が国の色に染めてやろう」
実に、実に楽しみだ。 すっかり思考を切り替えた私は、映像を見ながらニヤリと歪んだ表情を浮かべながら、書類作成の為にペンを走らせた。
この世界では、周囲に俺以外の男がいないんだが? けんざぶろう @kenzaburou
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