遊軍3(天王寺視点)

 体の中の魔力を爆発させて、先ほどとは比べ物にならない速度で鉄棒を振るうが、コレをドワーフは細身の剣で受け流す。


「やるねぇ」


「アナタこそ」


 少し速度を上げて、数度同じような攻撃を仕掛けたが、それらも全て防がれる。


「ハハッ!! あれも防ぐかドワーフ!!」


「防いだと言っても、アナタも本気ではないでしょう? 攻撃に余裕が感じられますよ」


「ああ、ここからが本番だッッ!!」


 今度は一息で無数の攻撃を仕掛ける。 瞬間的に武器をぶつけあった事で周囲に火花が飛び散った。 常人ならば今のアタイを目でとらえる事は不可能だろうが、目の前のドワーフは驚くべきことに全ての攻撃を的確に捌ぎきった。 それから更にフェイントを含めた攻撃を仕掛けるが、それらも全て防がれる。


「いいね!! いいねッッ!!」


 アタイは自然と笑顔を浮かべながら、更に魔道具に魔力を流し込み速度を最大限まで引き上げる。 その笑みは久しぶりに全力を出せるための嬉しさから無意識につくったもの。 アタイ的には、最初から全力でのぞみたいのだが、いきなり速度を最大まで引き上げると体中の筋肉が軋み、脳が揺れ自滅してしまう。 そのため、初速から徐々に速度を上げピークに達するまで数分かかる。 通常の戦闘では時間が掛かりすぎるし、大抵の相手ならば全力を出さずに倒せてしまうため、全力を出すのはアタイにとって本当に久しぶりだった。


「スグに死んでくれるなよ!!」


 久方ぶりの全力を出せるため、アタイはドワーフに対して立っていてくれと祈る。 速度を最大限に上げたアタイは、同時に、音速をも超える攻撃を数百叩き込んだ。 あまりにも速いため攻撃の余波で、地面がえぐれ、粉塵が舞う。 この攻撃はアタイにとって必殺の攻撃。 今までどのような相手であれ、防ぎきれるはずが無いと絶対の自信があった攻撃だったが。


「マジかよ……」


 粉塵が舞う中、目の前のドワーフは最小限という言葉が適切なほどに、わずかな動きでこれら全てを防ぎきる。 驚くべきことに無傷でアタイの必殺をしのぎきった。


「……今のは驚きました」


 相手も息を切らし肩で呼吸していたため、余裕という訳ではなかったみたいだが、それでも必殺の攻撃を見切られた事による衝撃は大きい。


「……嫌味か? 今のはアタイのとっておきだぞ?」


 アタイは、攻撃を受け止められた衝撃で思わず足を止めてドワーフと向き合う。 すると嬉しそうにドワーフは微笑んだ。


「そうなのですか? でしたら俺の勝ちという事にして話を聞いてくれないでしょうか?」


「それとこれとは話が別だろ? せっかく全力を防ぐ化物に会ったんだ。 弱者なら何も学ぶことが無かったが、強者であるテメェと戦えば、アタイはもっと強くなれるかもしれねぇだろ?」


「……ひょっとして逆効果でしたか?」


「ああ、強い奴を見て戦いを挑まないのは失礼だろうしなッ!!」


 アタイは、再び速度を取り戻し攻撃を再開した。

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