少女ー3

「椎名? よく俺のいる場所が分かったな」


 突然現れた椎名に向かって言葉をかける。 本当に神出鬼没である。


「当然です、コレでも私は菊池さんの付き人ですからね。 しかし、石井さんの姿が見えないですが、ご一緒だったのでは?」


「まあ、色々あってな。 帰りは一緒だが今は別行動だ」


「そうですか、そういえば菊池さんは食事はもうお済ですか? もしお済で無いのなら時間もありますしご一緒に―――」


 椎名が俺の陰に隠れていた少女を目にすると言葉を途中で切り動かなくなった。 どうしたのだろうか。 今まで結構な時間、椎名と行動していたが初めてのリアクションだったために若干の不安を覚える。


「椎名?」


 動かなくなって数秒も経過してはいないのだろうが、異常な空気に耐え切れずにとっさに椎名の名前を呼ぶ。 しかし、それでも椎名は無反応のまま少女を見つめ続けている。


「………薬師寺様」


「……様?」


 椎名の出した声が若干震えていた。 椎名が様付けをする程の、この少女はいったい何者なのだろうか? 俺が、疑問に思うと同時に少女が椎名に対して口を開く。


「久しいな椎名。 言いたいことは色々とあるが、今はいい。 とりあえず、学校にある竜也に与えた別荘に帰ってから話すとしよう」


「今からですか? 休暇はもう少し先の筈では?」


「仕事は済ませた。 私は今日から非番だ。 問題は無い」


「しかし、薬師寺様のお部屋の準備などが――」


「気遣いは不要だ。 私と竜也は一緒の部屋、それで問題はなかろう」


 珍しく会話の主導権を握られて椎名が押されている。 このまま椎名があたふたしている姿を個人的には見てみたい気がするのだが、先ほどからの少女と椎名との会話で一応確認しておかないといけない事がある。


「ごめん椎名、色々と聞きたいことがあるんだけれど、この方の説明をしてもらえるか?」


 話に割って入る。 二人が会話を中断してこちらに注目したために、少し落ち着かないが、いろいろ順を追って話してもらわないと、急激な状況の変化に対応できるほど俺の頭は上等には出来ていないため仕方が無い。


「すいません菊池さん、ただでさえ記憶が戻ってないのに混乱させてしまいましたね。 このお人は薬師寺 紅葉(やくしじ くれは)様、この前お話した菊池さんの婚約者で、この国の国王です」


「へっ?」


 思わず変な声が漏れてしまったが、仕方が無いだろう。 椎名はいつもと同じ調子で言葉を発したが、発した言葉が重すぎる。 自分の中で消化しきれない。


「………ごめん。 本当に展開が急すぎて頭が追い付かない」


 思わず頭を抱えながら考えをまとめる。 目の前の少女は国王様? ……ダメだ意味が分からない。 


 悩んでいる俺を見て薬師寺さんは、ため息をついた。


「適応能力が低いのは、記憶を失う前と変わらんな」


「普通だと思いますよ? そもそも、国王様が何でこんな場所に一人でいたんですか? 普通はお付きの人がいるものなんじゃないですか?」


「それを1人で街を探索していたお前が言うか?」


「……確かにその通りなんですけど」


「椎名、私は街でしばらく竜也と遊んで帰宅する。 お前はココに連れてきた竜也の学友を連れて先に帰宅しろ」


「了解しました」


 返事を返すと同時に椎名は姿を消した。


「さて、それでは竜也、せっかくの休日なんだ。 私たちは少し羽を伸ばすとしよう」

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