決戦前夜(デート前夜)石井の場合-3

 聞き返すと同時に山口先輩がいつもと変わらぬ表情のまま口を開く。


「さっきの話の中で、付き人の椎名さんだったっけ? その人は相当な美人さんなんでしょ? 加えて菊池さんを傍でサポートすることに余念がなく、恐らく付き合いも長いのよね? そんな人にポッとでの石井が勝てる要素なんて無いでしょう?」


「たし…かに」


 山口先輩がいう事ももっともだ、確かに私なんかより綺麗でカッコよく、強くて、気遣いができる椎名さんの方が何百倍も魅力的だ。 しかし山口先輩の言葉に疑問を持ったのか荒川先輩が口を挟む。


「山口先輩、私はそうは思わなかったですよ? むしろこれを機に石井と仲良くなりたいような感じじゃなかったですか?」


「甘いわね荒川後輩。 だから、荒川後輩はモテないのよ。 いい? 普段一緒にいる人っていうのは改めて遊びに誘うとか結構恥ずかしいものなの。 言いかたは悪いけれど、だから石井をダシに使って今回のデートに誘ったのよ」


「うわぁ、本当に言いかた悪い。 私は、普通に遊びに行こう的な意味だと思ったんですけど?」


「いえ……山口先輩の…言うと通りかも……しれま…せん」


 確かに私みたいな根暗女が菊池さんに誘われること自体が異常なのだ。 菊池さんの隣にはすでに強くて綺麗な椎名さんが居たというのに身分もわきまえずデートに誘われて舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。


「先輩…私は明日……どうすれば…いいですか」


「簡単よ、菊池さんと椎名さんでデートを楽しめるように途中で抜ければいいわ」


「ええ? 流石にソレは失礼じゃないですか? 仮にも一緒に行動しておいて途中で抜けるとか、そんな事しない方、が無難ですって」


「荒川は黙っていなさい、ここは経験豊富な私の言う事が圧倒的に正しいのよ。 私が正義なの」


「山口先輩が経験豊富なんて初めて聞きましたよ? 今の今まで、浮いた話すら聞いた事が無いんですけど? 一体いつからそんな経験豊富になったんですか?」


「それは安易な考えよ荒川後輩。 なにも、恋人の有無が経験に直結するわけではないわ。 私くらいのいい女になれば独り身でも充分に恋愛上級者よ」


「すげぇ…。 経験が無いって自分で言ってるのに、その自信はいったいどこから出てくるんだ」


「私の生きざまからに決まっているじゃない」


 山口先輩は胸を張り、自信満々に言い切った。


「でも…山口先輩が言う…ように……失礼ではない…ですか」


「偶然を装って私達がデートの途中で合流すれば問題ないわ。 合流さえすれば何かしらの理由を付けて荒川後輩が無理やり石井を連れ出すから心配無用よ」


 急に話を振られた荒川先輩がギョッとした表情で山口先輩を見た。


「ええっ!? 私が連れ出すんですか? 山口先輩がやってくださいよ!!」


「嫌よ」


「滅茶苦茶ワガママ!!」


 2人のやり取りを見ながら考える。 確かにその方法ならば角は立たないが、しかし本音を言うと菊池さんとデートはしたい、だけれど菊池さんの目的が椎名さんとのデートならば菊池さんの恋路を邪魔してしまう事になる。


 色々とお世話してもらい、助けてもらった二人の恋路ならば私の気持ちなど二の次にすべきだろう。


 自分の気持ちを押し殺し覚悟を決める。


「先輩……明日は…よろしく…お願いします」


「全責任は荒川後輩が持つから安心して私に任せなさい」


「…えぇ、マジですやるんですか?」


「当たり前じゃない、困ってる後輩の為に一肌脱げなくて何が先輩なのよ」


「……その後輩に私も入れて下さいよ」


「嫌に決まっているじゃない、アナタは何を甘えているのかしら」


「えぇ……マジかこの先輩」


 胸を張り堂々としている山口先輩と何か納得がいっていない表情を作る荒川先輩。


 その後、先輩方と入念な打ち合わせを行い、概ねの予定が決まったので先輩たちにお礼を言って、その日は落ち着いた。

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