とある国の決定事項ー2

 言葉につまったイレーザを見据えたまま、デイリ王は言葉を続ける。


「それに血が薄まると言っても、数は大したことは無かろう。 人間との同盟を結んだあかつきには、技術を提供してもらい人工的に増やしていく予定だ」


「しかし…」


「既に決定したことだ、諦めよ」


 その言葉にイレーザは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 だが国王はイレーザはのその表情を無視して次の言葉を発した。


「そして私は、お前に大使として人間の国に行ってもらおうと考えている」


 この言葉を聞いてイレーザは腹の中にどす黒い感情を抱きつつ、より深く眉間に皺を寄せ国王を睨みつけた。


「私にデュノア様以外に抱かれろと?」


「話が飛躍しすぎだ。 確かにあの国には男がいるがお前にそこまでは期待していない。 既成事実が作れるのならばそれに勝ることは無いが、今回はいい印象を持ってもらうだけで構わない」


「無理です」


 即座に否定するイレーザに対して、やれやれと言った様子で溜息をつく国王は面倒くさそうに言葉を発した。


「我がままを言うな。 考えとは言ったが、これは決定事項であり反論は受け付けない」


 国王の言葉に対してイレーザは感情を隠そうともせずに目に見えて不貞腐れる。


「なに、すぐに行けとは言わない。 細かい日時などは決定していないが数週間後の話だ。 それまでに心の準備をしておけ」


「…失礼いたします」


 怒りを隠そうともせず感情のままに、激しく扉を閉めて退出するイレーザを見て国王は頭を抱えた。


「我が娘ながら融通が利かないな。 そんなに人間が嫌いなのだろうか? ウイルお前は同盟についてはどう思う?」


「正直に言えばイレーザと同じ気持ちです。 …しかしながら王のおっしゃったように、このままでは我々ドワーフが絶滅するのも事実。 傘下に入るのも仕方がないかと」


「そうか、お前もあまり人間を好きではないのか」


「はい、仮にですがこれが獣人やエルフなど加護を受けている種族だったならば彼女もあのような、あからさまな態度をとることは無かったと思います。 ですが能力面で遥かに劣る劣等種との同盟では受け入れがたいものがあるのでしょう」


「種族的に優れていないから受け入れがたい…と?」


「はい、私を含めほとんどのドワーフが加護無し(人間)を見下しています。 なので、いくら王令といえ今回の同盟を結べば我々ドワーフの間でも様々な問題が起こる可能性がございます」


「…同族同士で血を流している場合ではないのだがな、ウイルはどのようにするのが一番だと思う?」


「同盟を結ばないのが最善ではあるのですが、そうですね。 同盟を結ぶのは人間を我々ドワーフの支配下に置くための布石と噂を流すのは、いかがでしょうか? 味方のフリをしているだけと触れ回れば多少は反発も和らぐと思います」


「支配下か…私にその気はないぞ?」


「はい、ですが穏便に事を運ぶというのがすでに無理なのです。 となると混乱を起こさないためには最早それしか方法が無いかと」


「……そうか、参考になった。 ウイル下がってよいぞ。 皆の者も今回は解散して良い。 少しだけ考え事がしたいからな一人にしてくれ」


「はっ。 失礼いたします」


 ウイルやその周辺の近衛騎士達が敬礼をして静かに退室すると穏便に同盟を結べない事を悟ったデイリ王は再び頭を抱えた。

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