2章 ドワーフ国編
とある国の決定事項
「国王、正気ですか!?」
豪華な装飾が施された部屋の一室で、声が反響する。 周囲の女性は声を上げた彼女に対して非難の視線を向けるが。 彼女は、場の雰囲気に飲まれることなく、中央に座る王を睨みつけた。
「イレーザ、王の御前だぞ」
見かねた一人が彼女に対して非難の声を上げる。 しかし、咎めてきた女性に対してもイレーザは睨みつけると同時に口を開いた。
「ウイル、アナタは良く落ち着いていられますね。 王の言ったことが本当なら我々の国が加護無しの属国になるのですよ」
「属国ではなく同盟だろう」
「今の内容のどこが同盟なのですか? 王も王です。 このような条件を飲むなんて正気とは思えません」
「お前、デイリ王に向かって何という口の利き方を!!」
「ウイル、イレーザ」
静かに、だが力強い声が二人の名前を呼ぶ。 たったそれだけで二人はピタリと口を閉じた。
「イレーザよ、人間と同盟を結ぶのはそこまで嫌か?」
「はい、加護も受けていない劣等種の傘下に収まるなど想像するだけで虫唾がはしります」
真っすぐな瞳で王を見上げ言葉を出すイレーザは実に堂々としており何も間違った事は言っていないと言った態度をとる。 当然、周囲からは冷ややかな反応が起こるかと思われたが、この言葉に対してのみ、周囲は納得の表情を浮かべた。
「なるほど、加護か。 確かに人間は生まれながらにして何の加護も受けていない。 だが人間はそれらを払拭するほどに文明を発展させている、そうだろう?」
国王が再び口を開く。 その口調は聞き分けの悪い子供をなだめる様に似ていた。
「…確かに、文明を発展させ大国となった奴らの努力は認めます。 しかし、だからといって同盟を結び、精を分けてもらおうなど正気の沙汰とは思えません!! 血が混じるのですよ、我々誇り高きドワーフ族の血が薄まるのです。 これに関してはどうお考えか!!」
「それについても仕方が無かろう、我々は人間のように科学の力で増やす技術もなければ、エルフの様に長寿でも獣人の様に一度の妊娠で複数の個体を出産できるようにもできていない。 このままでは血の濃さ以前に近い将来確実に滅んでしまう、事実、我々の国は既に人口が500を切っているではないか」
このままでは種族自体が滅びると断言する国王。 しかしイレーザも一歩も引かずに反論する。
「ですが私達の国には、まだデュノア様がいます!!」
ドアーフの国の最後の男の名前を口に出すイレーザは他種族に頼らなくともデュノアを求めればいいと主張する。 しかし、その反論に対しても国王はゆっくりと首を振り否定する。
「奴は不能だろう? 子が生せぬ男に何の価値がある」
「デュノア様は不能ではありません、私は一度………デュノア様に抱かれています」
「それは、あまりにも行為に及ばないために薬を盛った時だろう? あれ以来、奴は引きこもってしまった。 とても行為におよべる状態ではない。 不能と同じではないか」
「それは……」
国王の反論に対して、イレーザは言葉に詰まった。 確かに初めての行為に及んでからデュノアが引きこもったのは事実である、そのためこの国の人口が増えずに減少傾向にあるのはイレーザの責任とされている。 言葉の裏でお前のせいで現状他国に頼るしかないと告げられたためにイレーザは言葉が出なかった。
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