拷問 ※暴力的表現が含まれています

「…ォ……ッ」


 誰かに呼ばれた気がする。 だが熟睡しているところを起こされているような不快感を覚えるため、意識的に私を呼ぶ声を無視する。


「オ……ォ………ッ」


 無視する私をより大きな声で起こそうとしてくる。 


「オオ……ォ………ヲ……ッ」


 先ほどよりも五月蝿い、流石に耐え切れなくなったため不快感を覚えつつも声の主に文句を言ってやろうと体に力を入れる。 しかし私の意志とは関係なく体はピクリとも動かない。 体が疲れているのだろうか? そう思い、今度は体ではなく鉛のように重い瞼をゆっくりと開けた。


「オオォォキィイロォヲォオオッッッ!!!!」

 

「なっ!?」


 目を見開き驚きで思わず声をあげる。


 私を起こしたソレは、おおよそ人間と呼ぶには余りにも酷いありさまだった。具体的な言葉で表すなら、バターを溶かしたようにただれた顔に、骨が見えるほど腐った腕。 腹は切り刻まれた傷から臓物が見え隠れし、足には無数の針が打ち付けられていて、とても見るに堪えない。


「て……てん…さん…やっとおき…てくれた、ハハハハ……」


 てんさん? その名前で呼ぶのはアタイの取り巻き達くらいだ。 ……まさか目の前の人の形をかろうじて保っているコイツは、アタイのダチなのか? 


「おい、何があった?」


 掠れた声で笑い続けるダチに駆け寄ろうとするが、やはり体は動かない。 いったい何だ? 何が起こっている?


「ああ、目覚めたのかクソ虫」


 酷く冷めきったような声が反響する。 周囲が薄暗いからなのか、ダチの横にいる第三者に気が付かなかった。


「誰だ」


「わざとらしいな、……知ってるくせに」


 そう口を開いた彼女には、確かに見覚えがある。 菊池の付き人で、名前は……椎名だったか。


「だっ…ダチに……何をしやがった」


 震える声で彼女に尋ねる。


「別に? ただ魔術で拷問の真似事でもしようかなぁーと思って」


「な…ぜ?」


「理由? そんなもの菊池さんが目を掛けていた人間をアナタ達がちょっかい出したからに決まってんだろ」


 あからさまに不機嫌な表情を作ると彼女の明確な敵意を含んだ瞳がアタイを映し出す。 瞬間、私の置かれている状況が頭をよぎり恐怖で体が思わず身震いする。


「やっ…やりすぎ……だろ」


 込み上げてくる恐怖心を必死に押し殺しながら目の前の彼女に意見する。


「アハハハ、菊池さんのお気に入りに重傷を負わせたクソ虫が不思議なことを言うなよ。 他人は傷つけてもいいが、自分は嫌とかあまりにも人間味がありすぎて非常に面白いぞ」


 ケラケラと腹を抱えて笑っている彼女はひとしきり笑うと言葉を続けた。


「安心しろ、こう見えてこいつは元気なんだ、そうだろ?」


 そう言ってダチの腹部に何処からか取り出した短刀を突き刺す。


「あぁあぁぁぁああ!!!!」


「ほら、まだ元気だろ?」


 ビクンと跳ねるダチの様子を得意げに見せてくる彼女の笑顔が恐ろしい。 カチカチと歯が音を立てて震える。 こんな事があっていいハズがない、目の前のコイツは何なんだ、やめてくれ。


「やめて……ください」


 目の前の狂人が聞き入れてくれるはずが無いであろうが、頼まずにはいられなかった。


「いいよ、別に」


「へ?」


 だが予想に反して目の前の彼女は、あっけないほど簡単にアタイの願いを聞き入れた。 意見が通るとは思わなかったアタイは、思わず驚きの声が漏れた。

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