初めての学校
「つかれた」
初めて授業を受け思ったことがこの一言に凝縮さてている。 菊池竜也となってから早くも、一月が経過した。 俺はこれから成人するまで教育の一環で学校という場所に通わなくてはならないらしい。
宮本高校。 国内でも一番大きく外壁には結界によって魔物対策もされている国内屈指の安全地帯であるというのが木乃美さんから言われた学校の紹介だった。
「しかし広いよなココ」
「ええ、一応ですが、こういった学校は外部から隔離されても生活に支障がないように作られていますので、それなりの規模になります」
「……それなり?」
椎名の言葉に思わず呟く。
学校の敷地内に、アミーズ施設や飲食店、 ショッピングモールに宿舎等があることがそれなりの規模の一言で一蹴されてしまった。 付け加えるなら俺の入院していた病院も、退院して一月過ごした庭付きの豪邸も高校の敷地内だった。
俺から言わせてもらえば軽い町レベルである。 学校という言葉がむしろ付属品のようにさえ感じてしまうのだが、 こうなった形態にも理由や歴史があるらしい。 その辺の説明も軽く椎名に説明を受けたのだが残念ながら俺の頭では意味が理解できなかった。
それよりもだ、今日受けた勉強とはなんなんだ? 新手の拷問ではないだろうかと疑問すら覚える。 幼いころから剣を握ってきた身としては思い出すだけでも吐き気が込み上げてくるような所業だった。 一日机に向かい、ひたすら紙に文字を書きとるだけなど狂っているとしか思えない。
そして、どうして学校の制服がスーツなんだ? 授業だけでも精神的に疲れてるのに、堅苦しい服装で更に苦しませるなど最早、人の所業とは思えない。
しかもだ、俺はそんな思いをしているのに女子の制服はバリエーションが様々だった。
短いスカートに長いスカート、リボンにネクタイ、カーディガン。 多種多様なバリエーションの中から自分の好きな組み合わせで選んでいいらしい。 最初から選択肢はなかった俺とは大違いである。
もちろん服装に関してはそれとなく抗議したが、男性は人数が世界でもかなり希少な存在なので、そもそも服の種類が限られてくるらしい。 なので俺の場合は外に出る用の服は椎名の着ているようなスーツタイプしかないと説明を受けた。
どんな嫌がらせだよと喉まで出かかった言葉を飲み込む。 そして、その分、苛立ちは積もった。 そういった気分を紛らわすといった意味も含めて放課後に校内を探索している。 まあ、一応はこれからしばらくは通う施設なので何処に何があるかとか掌握するためでもあるのだが。
そこまで考えてチラリと横を見ると視線に気が付いたのであろう椎名が口を開いた。
「どうかされましたか?」
「いや、目覚めてから、ずっと側に控えているから椎名が大変じゃないかなと思ってさ」
「大変ではないです、菊池さんをお世話するのが私の仕事ですし誇りすら感じます」
ニコッとまぶしい笑顔を投げかけてくる椎名を見て一瞬だけドキッとする。
そう、更にストレスを抱える原因として、先ほど椎名が言ったように彼女がほぼ一緒にいるのが問題なのだ。 家でも一緒、外出も一緒、何をするにも彼女は俺と行動を共にしている。 流石に寝室まで一緒だった時には抗議の声を上げたのだがそれすら却下された。
彼女いわく(私はアナタ専属の魔術師です、呪いの類の発作が出たとき私が対処できるようにアナタと一緒にいるのは当たり前じゃないですか)との事で取り付く島もなかった。
まあ、確かにその通りなんだけれど正直つらい、何がつらいって彼女が美人だから男として意識してしまうわけである。 そんな緊張状態が途切れることなく、一月を過ごすというのは正直ストレス以外の何物でもなかった。
「……でも授業中はいないんだよなぁ」
そんな俺にベッタリな椎名が唯一、俺の側から離れる時間が授業中だ。
休み時間などは何処からともなく現れて俺に付き添っているのだが、授業になった瞬間、まるで隠密のようにいなくなっているのである。
ちょうどいい、先ほどから二人並んで校内巡回するだけでは味気ないと思っていたところだ。 会話を始めるきっかけとして聞いてみることにする。
「椎名は俺が授業受けてる時ってどうしてるの?」
「保健室で寝てますね」
「えっ? 保健室にいるの?」
しかも寝てるって、職務的にはいいのだろうか?
「はい、授業中には流石に年上の部外者が菊池さんのお傍にいては教師やその他の生徒が集中できないでしょうし、菊池さんはそれを良しとしないと判断しての行動です。 呪いの類で苦しんだとしても教師が私を呼びに来る手筈となっているので安心してください」
椎名は、もちろん菊池さんが授業中も傍に控えてほしいとの事でしたらお傍に控えますけど? と言葉を続けたが、自分から息苦しい環境を整える気は無いので、当然ながら現状を維持してくれと答える。
仕事中に寝ているのは正直褒められたものではないが、やることをやっているなら俺が咎める事ではない。 それに前にいた世界では要領よくサボる奴が意外と出世してたりするから椎名もそういったタイプなのだろうと勝手に納得する。
「ん?」
考えを巡らせていたからだろう、視界に入ってきたものが一瞬何か分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます