ミチル企画ヒストリー~夏企画を守れ!~

今晩葉ミチル

夏企画中止!?

「ふっふっふっ……じゃっしーん☆今日もみんなに媚びを売るのだー!」

 アイドル適性が絶対零度の邪神ミチルが、鏡を見ながらほくそ笑んでいた。

 日頃はどす黒いヘドロの姿をしているが、今日は違う。

 

 普通の女の子の形をしているのだ。深い意味はない。


 今日のミチルはオレンジ色の短髪と色白の肌が輝く。青い短パンと肩出しの黄色いキャミソールがエロい。ついでに、可愛いと言わないまでも嫌悪感を与えない声を発していた。

「そんじゅそこらの人間を、セクシー邪神がイチコロなのだー!w」

 セクシーのセの字もない甘ったれな口調であるが、ミチルは自信満々であった。

 

 しかし、この事態を快く思わない者がいる。


「ミチルよ、まさかまたミチル企画を行うのか?」

 邪神パパだ。ヒゲをたくわえた由緒ただしきパパである。

 ミチルは元気よく頷いた。

「ミチル企画は生きがいなのだー!」

「その気持ちはよく分かる。しかし、よく聞きなさい」

「ほえ?」

 ミチルは首を傾げる。

 パパの表情は真剣そのものであった。

「いいかい、ミチル。おまえは邪神として生まれたのは分かっているな」

「うん! 本来の姿はヘドロじゃっしーん☆」

「その事でママがどれほど胸を痛めていか知っているか?」

「痛めなくていいのだー。自然発生だったのだー」

「夫婦二人になるたびに、ミチルにはかわいそうな事をしたと何度も嘆いていた」

「邪神はすごいじゃっしーん☆」

 微妙に会話が噛み合わない親子だが、なんとなく会話は続く。

「ミチルよ、おまえを普通の女の子にする」

「余計なお世話なのだー」

「そのためには、ミチル企画から離れてもらう。おまえには、オシャレや社交場や花嫁修業を学んでもらい、立派なレディになってもらう」

「何を言っているのか分からないのだー。ミチル企画をやりながら立派な邪神になるのだー」

 ミチルの言葉はあまりに不用意なものだった。

 穏やかだったパパの口調が一変する。顔を耳まで赤くして、両腕をぶんぶん振り回している。

「許さん! ミチル企画はオタクの集合場だ。おまえはミチル企画の主催でいる限り女の子になれない!」

「ミチル企画は小説の匿名競作イベントなのだー。真剣勝負なのだー! 素晴らしいのだー☆」

「ならぬ! 念には念を入れて対策は打っておいたが、大正解だった」

「ほえ? 何をしたの?」

「パソコンからツイッターを見るがいい」

 ミチルは素直にパソコンの電源を入れて、ツイッターにログインしようとした。

 しかし、メールアドレスかパスワードが違うと表示され、弾かれる。

「ほえ!?」

「アカウントを乗っ取っておいた。今どきパスワードを123とするとはな。簡単にログインをしてメールを登録し直す事ができた。ついでに、電話番号もおまえの知らない俺の実家のものにした」

 平たく言えば、ミチルのツイッターアカウントはパパのものにされてしまったのである。

 ミチルは仰天した。

「えええええΣ アカウント返せなのだー!!」

「返すものか! 『夏企画は中止なのだー』とツイートしておいたからな。これで夏企画の開催は不可能となった」

「えええええΣ!? 酷すぎるのだー!!」

「はーっはっはっはっ! いくらでも罵るがいい。おまえを普通の女の子にするためだ。これはママの願いであり、おまえのためだ。ミチル企画運営陣と連絡するためのスマホも隠しておいた」

「返せなのだー、仕事にも使うのだー!!」

「おまえが普通の女の子になったら返してやろう。さあ、早速熱海でお食事だ」

「わーい(*´∀`*) 熱海ー!!」

 ミチル企画の事はどこへやら。熱海パワーには勝てなかったらしい。

 こうして、夏企画主催であるミチルのアカウントから、夏企画中止のお知らせが発信されたのだった。

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