蠱惑的なイーストゴッドリバー

 案の定、イーストゴッドリバー駅で乗り換えが発生した。


 待ち時間の間もしつこく身の上話をしてくるコスプレイヤーに僕は心底うんざりしていた。


 おコスプレイヤーのレベルが50だとか爆裂魔法がどうとか、小説や漫画のプロットを人がいるところで堂々と話さないでほしい。聞いているこちらが恥ずかしくなる。


 コスプレイヤーの話に嫌気がさして、あさっての方向に視線をやると立ち食い蕎麦屋が目についた。そういえば、少し小腹が空いている。


「立ち食い蕎麦屋か……戦いの前に腹ごしらえとするか。なに、心配するな。おごってやるさ」


 僕はコスプレイヤーを蔑んでいたことを恥じた。彼は身なりはこんな通報対象だが、心は本当の勇者かもしれない。


 でも、電車の時間がある。釣られてはいけない。あそこは魔のゾーンなのだ。


「なに、まだ時間があるさ。ほら、時計だと10分はある。蕎麦を掻っ込むくらいわけないだろ?」


 確かにそうだ。僕はコスプレイヤーと共に蕎麦を頼む。


 久しぶりの蕎麦だ。このかき揚げも揚げたてみたいだ。僕の体に力が湧いてくる。


「電車が到着します……ご注意ください」


 あれ…電車が来ているぞ。なんでだ?


「誰もいないので発車します」


 おい、ちょっと待って。そんな出発理由があるか!


 僕たちを残し、電車は行ってしまった……呆然とする僕を尻目にコスプレイヤーがボソリと呟いた。


「…どうやら私の時計、時刻がずれていたようだな…」




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