案山子の手足


 そこを見付けたのは偶然も偶然だった。あちこち這いずり回っている内に躓き、転がり落ちていった先だった。

 最初は暗闇で目が慣れていなかったし、薄明かりの中で輝くそれに文字通り目が眩んでいた。

 持っていたツルハシで輝く壁面やら床を舐める様に這う様に齧り付く様に貪る様に縋る様に奪う様に蹂躙する様に殺す様に滅茶苦茶に砕いた。

 そして、目が慣れた頃、体が悲鳴を上げてツルハシを取り落とした頃にそれがその辺に落ちていて、無価値だと断定されて捨て置かれている琥珀と同じものだと気が付いた。

 鋼鉄の様に堅い宝石だと思っていたお宝が頑丈なだけの石ころだと気付いた時、呪いの言葉や罵詈雑言は出てこない。

 何かが自分の中で切れて、ひゅぅと息を吐くのと同じタイミングで何か大事なものに穴が開き、体が体の形を保てなくなる様に硬い地面に叩き付けられていった。

 なんでアイツらは自分達の探し物の形すら知らないんだ?

 なんであいつらは俺にこんな大変で面倒で辛くて苦しくて疲れる事をやらせるんだ?

 おかしいだろ、なんで俺はボロい廃村の虫の這いずり回りそうな廃墟で寝泊まりをさせられて、植物学者なんて俺とは無縁で意味の解らない草弄りをしている連中の真似事をして、世の中で自分達は上に居ると勘違いしてる粋がっているだけのガキの戯言に吐き気を催しながら必死にご機嫌取りをして、気味の悪い森の中で這いつくばって石を掘っているんだ?

 アイツらがやれば良いだろう?やれよ、俺にやらせるなよ、自分達でやれよ。そして価値が無いなんて言うなら金を寄越せよ。

 俺はなんでここでこんな事をやっているんだ?




 「なんであれにやらせるワケ。餌付けした駄犬に頼んだ方がよっぽど見付かるだろ?」

 吐き捨てる様に、心底相手を虚仮にする様に、あるいは呆れた溜め息に乗せる様な言葉を隣に居る筈の相手に投げつける。

 「目的を遂行する為には手足が必要だ。そして、手足はただ動いていればよい。

 我々相手に疑いを抱く様な思考能力は要らない。目的に思い至る想像力も要らない。ただ手足を動かし続ける。それだけで良い。

 手足に頭は要らない。幾ら切り捨てても痛くも痒くも無く、替えが幾らでも要る部品だった。それがあれを選んだ理由だ。」

 徹底して情動らしきものが無い。機械的で冷酷。合理的なその言葉は、言葉に相応しい能面の様な表情から放たれている。

 視界は真っ白で、空気は凍り付く様。伸ばした自分の手が真っ白な闇に凍り付き呑まれる様なそんな中で、その会話は繰り広げられていた。

 「だからって朽ち木の枝みたいな能無しを手足にするのは間抜けのやる事でしょ。」

 「あれに期待しているのは別の事だ。別にあれが見付けようと見付なかろうと、構わない。

 我々が回収出来ればそれで良い。全ては、目的遂行の過程だ。」




 二人の他に、この言葉を聞くものは居ない。

 仮に居たとしても、この言葉の意味を理解し、止める事は出来ないだろう。

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