傭兵契約に関する法律
「これは、どういう事でしょう?」
傭兵が案内した先の場所を見て淑女が睨み付ける。
「あ?俺の知ってるオタクの学園の生徒の心当たりってのはここのお嬢ちゃんなんだが?」
その眼光がこちらに向いた事で悪意が無い事を示す為に両手を上げる。背中の狂戦士が滑り落ちそうになった。
目の前には石ばかりの地下空間には似つかわしくない小さなテント。正確に言えば扉と小さな窓が取り付けられ、壁も薄っぺらな布ではないし、そこそこしっかりした作りだから『小さな家もどき』と呼べなくもない。
「中の者と会話は?」
「やんごとなきお方は中々顔を見せねぇし下々の者と積極的に話さねぇって事くらいは知ってるからな。気を利かしてちょっかいなんざ出してねぇよ。」
「何日程これはここに?」
「三日ってところだ。」
「食事はどうしていましたか?」
「依頼人からは『なんもしなくていい。守るだけでいい。』って言われてたが……食い物を食う気配もなんも無くて妙だったからな。そこの窓の隙間から適当に食い物は放っておいたぜ。一応な。」
「成程。ところで、ミスター=カナン。一つ質問を宜しいでしょうか?」
「あ?なんだ学園長先生?」
「学園長先生……良いでしょう。
傭兵を雇う際には傭兵契約に関する法律に基づいた契約が必須となっている筈です。
そして、もしその法律に違反する契約を強引に、あるいは虚偽の情報を基に結んでいた場合、契約は遡って無効になる。それで、宜しいですね?」
「おぉ、貴族のお嬢様教えてる先生ってーのは博識なんだな。
その通りだ。俺達傭兵を騙したり、陥れたり、殺そうとした貴族が一回家を焼き討ちされた上に焼け跡に生きたまま裸で吊るされた事があってな。
それから出来た所謂『協定』ってヤツだ。俺達もならず者や
勿論他に契約内容を漏らすのも御法度。口の軽い阿呆と汚い阿呆は実質業界から永久追放ってヤツだ。
ま、自分に降りかかる火の粉の類は返り討ちにしていいし、ふざけた契約を結ばせようとした阿呆は傭兵間のブラックリストに載せられて吊るしても良いって話だがな。」
気風の良い男前は大きく口を開いて笑う。対して淑女の表情は硬く冷たく恐ろしい鬼神にも勝る強面だ。
「今回、契約内容は法に基づいた『護衛』で宜しいですか?」
「ま、守秘義務で詳しくは言えねぇが、そうなるな。
だからどうした?」
「であれば、貴方達の契約は破棄ですね。」
淑女の手が少し動いた気がした。
破裂音が響き渡った。
『小さな家もどき』が歪み、溶け、鉄格子に変わり、中には綺麗な恰好をした小娘が寝ていた。
俺の目の前で三つの事が同時に起きた。
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