四ならば……

 背中から地面に叩き付けられてまともに動けはしない。自分の魔法で体の前面は重度の大火傷。中身も過剰な魔法の行使で骨と肉と神経が破壊し尽くされている。

 全力で魔法の行使をした結果、魔力も逆さにした杯の様になっている。

 四本あった得物の内、一本目は投げ捨て、二三本目は砕き折られ、残るは一番短い一本のみ。

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば死!』

 それでも男は動く。

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば死!』

 やるべき事だと思うからその言葉を胸に動く。

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば死!』

 自分が十全な状態でも、術式を仕掛けられても、相手に足手まといが居ても、武器を持っていなくとも、傷を付ける事は叶わなかった。この壊れた体ではあの怪物を傷付ける事など到底出来やしない。

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば死!』

 命を救われた。それは何よりも恥。

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば死!』

 敵対者に情けをかけられるなぞあってはならない!

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば死!』

 三本で殺しきれないのなら、四本目には死を。

 焼けた手にはまともな力が入らない。ひとを切るにはあまりにも頼りないその手であれど、恥知らずの己の腹を掻き斬る事くらいなら出来る。

 『一本投擲!二三で二斬り!四ならば己に死を!』

 最後の一刀は自分へ。命の礼はあってはならない。

 「命捨てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………………………………………………………………………………………………!」

 最後。何処を絞り出しても力は残っていない。それでも乾き切った自分を絞りねじ切る。

 「いざ、黄泉の旅路!」

 掠れてその声は誰にも聞こえない。

 貧弱な最後の一刀は振り下ろされた。


 「淑女がそれを許す訳がないでしょう?」


 心の底から凍り付いた。

 その場に居る誰も彼もが……獣も恐れる二人の凄腕が恐怖で凍り付いた。

 それなのに、寒気がして凍り付いているのに、熱を感じた。

 『熔け消えなさい』

 自分の腹にマハー=ホーグは死の太刀を間違い無く突き刺そうとしていた。力こそ入っていなかったが手からそれが滑り落ちたという事はなかった。

 消えていた。無くなっていた。柄はあるのに、輝く刀身だけが消えていた。

 手に持っていた刀の刀身のみが、瞬時に蒸発させられたのだ。

 「淑女の前に血を見せるとは何事ですか?

 貴方に力を見せた者の前に屍を曝すとは何事ですか?

 私がその様な事を、命を捨てる愚行を、許す訳がないでしょう。」

 その言葉に呼応する様に空気が炸裂して、刀身が無くなった刀の残骸が手の中から吹っ飛び、砕け散った。

 「ミスター=カナン。改めて、案内をお願いしても?」

 「あー、解ったよ。そこの狂戦士はどうする?運んでくかい?

 その辺に寝かしといて舌でも噛まれた日にゃ寝覚めがワリいしな。」

 「お願いします。」

 淑女と傭兵二人は先に進む。

 

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