跪くは嵐
砂煙が周囲にまき散らされる。
元は周囲の天井や壁、床だったもの。風の刃と衝撃波で粉々になったものである。
「ッ痛ぇ~……」
穂先から放たれる風の刃の余波で吹き飛び、後方に吹き飛ばされれば噴出された空気に巻き込まれて更に吹き飛ぶ。自身の肉体を強化する理由は勿論槍を振るう上での威力の強化もあるが、その後の反動で自分が挽き肉にならない為の措置でもある。
最速で最大の威力を持っているからこそ、反動も恐ろしく強いのだ。
しかし、カナンは痛い痛いと言いながらも、懐にある小刀を二つ、取り出して砂煙の中を警戒する。
カナンは今までの連中があれを喰らって無事ではなかったと知っている。
竜相手にこれを使った時は喉が破裂して(返り)血まみれになったし、人間の背丈を超える大きさの頭が幾つもある蛇の頭を二つ串刺しにした時には毒を浴びて全身が爛れて酷い事になった。
ならば、ちっぽけな人間がこれを食らえば全身が破裂して死ぬ事になろう。紅蓮風刃の名前の通り風の刃は赤い血を纏って紅蓮となる。
それでも、だ。それだからこそ、だ。
本来竜や大蛇相手に使う奥の手を人間相手に使おうと思った自分の奥底の本能の様なものが騒ぐ。これで終わりではないと。
だからこそ、砂煙の中、自分の放った槍が自分に投げ返されはしないかと警戒していた。
「なんだなんだ⁉」
だからこそ、砂煙が薄れ始めてきた時に僅かに見えた異常な光景に思わず声を上げてしまった。
槍が、突き刺さっていたのだ。
深々と、穂先が見えない程埋もれていた。
しかし、埋もれているものが問題であった。これが死体ならば呆気無さに驚きはすれど声を上げる事は無かった。
風の爆発によって削られて少し広くなった一本道の一部分。その中心に得体の知れない真っ白な球体があり、槍はそこに突き刺さっていたのだった。
「何だってんだよ……」
警戒する。最悪の光景よりも、予想通りの光景よりも、考えもつかなかった斜め上の光景が何より恐ろしいからだ。
真っ白な球体を凝視し、しかし決して近付かずに観察する。
よく見ればその表面は陶器や磁器の類の様に滑らかな訳ではない。見ている内にそれの表面は揺らぎ、しかし形を乱さなかった。
周囲に気を配る。
あれが何にしろ、中にあの自称学園長が生きて居るにしろ死んで居るにしろ、死体を確認するまでは油断出来ない。
「『一撃を受け止めて無事』でしたので、
カナンは声を聞いた。
真っ白な球体が晴れて、それが先程まで漂っていた砂煙の粒子だと気付いた。
そして、その中で生きて居るという事も確認した。
そして絶望した。
「無傷かよ……」
紛れも無く全力だった、正に渾身だった、最高の一撃だった。
しかし、自分の持ち物全部を絞り出した一槍の穂先は、無慈悲にも自称学園長の指の先で皮膚一枚貫けぬまま止められていた。
文字通り、
止めた本人には傷一つ無く、衣服にさえ土埃一つ付けず、汗一つ無く、眉一つ動かさず、最初に見た時と全く同じ有様だった。
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