嵐を呼んだ凶犬


 「承りました。貴方の攻撃を受け止めれば、その暁には当学園生徒の居場所を教えて頂きます。」

 臨戦態勢で槍は構えっ放し。相変わらず向こうさんは構えていねぇ。

 それを『バカにしてる!』と怒るか?絶対ぜってぇねぇな。ありゃぁ何時でも何処でも臨戦態勢で居る人種だ。

 寝てる時に不意討ち食らわせても、確実に避けて返り討ちにしてくるバケモン。

 半端にちょっかい出したらこっちが確実にやられる。



 さて、俺は目の前の人外を相手に、やれるのかねぇ?

 場所。こっちは開けた場所を背にしているが、向こうはそうじゃねぇ。背を向けて逃げようが天井に跳ぼうが伏せようが絶対当たる。

 金払いは十分……じゃねぇな。桁二つ足さないと割に合わねぇ。

 相手の不足無し……じゃねぇなこれじゃ過剰だ。魔王に会ったこたぁねぇが、これ以上ってことは無いだろ。

 武器は何時も通り。穂先は錆一つ無い、曲がってもいねえ、滑る事もねぇ。

 魔力。今日は一度も魔法を使っていない。全力でぶっ放せる。

 体。さっきから心臓が妙にうるせぇが、問題ねぇ。何時でもやれる。

 で、最後に心だ。

 目の前には世界の何処に隠れてたんだ?ってくらいの上物。

 力量は底無しで勝てるか勝てないか分からねぇ。

 さっさと雇い主を裏切って向こうについたほうがお利口だろうな。


 『身体強化』

 『強度強化』

 『気流操作』

 『術式:局地暴風』

 『術式:紅蓮風刃』


 槍と自身の肉体に魔法を施す。自分の中に流れる力が逆さにした樽の中身みてぇに無くなっていく。

 代わりに全身に力が漲り、槍が唸りを上げる、風が俺へと流れ込む。

 指先の筋肉が千切れる限界まで槍を握り、大きく息を吸って、穂先を止める。

 「傭兵上等。戦闘上等。だが外道は駄目だ。お利口になって見捨てんなら馬鹿上等っての!」

 躊躇いは無い。岩の地面を踏み砕きながら進む。足から上半身を通って腕、そして槍へ。

 今俺の出した力の全てを一点に集結させる。

 最速で最大で最強。避ける間も小細工をする間も与えねぇ!

 穂先が真っ直ぐに自称学園長に向かい、直前で急激に加速した。

 「ぶっ飛びな!」

 手から槍が飛び出していき、穂先が相手を捉えた瞬間、爆発した・・・・

 当然自分も後ろへと吹き飛んでいった



 『身体強化』

 『強度強化』

 『気流操作』

 大概の傭兵が真っ先に習う魔法。誰でも強かろうが弱かろうが使っている魔法。

 身体能力を上げ、武器が砕けない様に強くして、風や空気抵抗を減らしてしくじらない為の確実な方法。

 『術式:局地暴風』

 これは物好きにも俺に槍の使い方を教えた師匠がついでだと言って教えた魔法、所謂『術式』というヤツらしい。

 一定の魔力を流すと指向性のある小規模な爆風を引き起こすシロモノだが、これを槍に使っておけば、武器を急激に加速させる事が出来る。

 相手は急加速で虚を突かれ、そして突きに限っては貫通力・・・までも増幅させる。


 『術式:紅蓮風刃』

 これは師匠の術式を俺が見様見真似している内に出来た、オリジナルってヤツだ。

 たまに湧いて来る硬い肉に刺さっても骨まで刺さらねぇ頑丈なヤツを相手にするために作った術式で、槍が刺さった瞬間、穂先から風の刃が飛び出して刺さった周りの肉を切り刻み、吹き飛ばす。

 今まで何度も使って、仕留めた獲物の食える部分を減らしてきたが、同時に自分が食われそうな時には俺の寿命を増やしてきた術式。

 人間様相手に使うのは初めてだよ。相手が本当に人間かどうかは解らねぇがな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る