禁句を言ったな?

 問題だらけのこの村に、新たな医者がわざわざ来る様な希望は持てない。

 そして、このまま毒爺を断罪して喪ってしまえばこの村は破滅する。

 かといってシェリー=モリアーティーをこれ以上に悪く扱えば何をされるか解らない。今見た光景で抵抗出来ない事は目に見えている。

 選択肢は『破滅するか』、『破滅するか』その二択。


 さてどうするか?


 自分達を傷付けるかもしれないリスクのある医者の凶行に目を瞑り、このまま医者を抱えて限界集落を続ける。

 シェリー=モリアーティーへの今までの対応を反省してそれっぽい態度を取ってご機嫌を取る。

 それが村の連中の答えという事になる。

 現状、ここの連中は何も力が無い上に卑屈負け犬思考回路の持ち主。そんな連中に他の選択肢を絞り出すという期待は出来ないのだが、やっている事は中途半端どころか毒爺のリスクはそのまま、こちらへの対応としては最早喧嘩を売っている最高峰の悪手。

 「いや、いやいやいや…イヤイヤイヤイヤイヤ!無理があるでしょ⁉さっき見せたでしょ?見たよね?見てないとは言えないでしょ?ドクジーめっちゃやらかしてたじゃん!言ってたじゃん!毒でどうにかなってる人間のやれる動きじゃなかったよね?あと連中殴ってたんだよ?モリーが何もしなかったら死んでたんだよ?どう言い訳してもドクジーはアウトじゃん!」

 「何を言ってるんだオーイ。あの形相、絶対普通じゃなかっただろう?あれは私達が知らない間に毒を間違って食べていたんだ。だから、あんな妙な戯言・・を口走ってたんだろう。

 さ、オーイ。モリアーティー様をお連れしなさい。私達でドクジーさんを看病して、中毒の件の犯人は捜しておく。」

 「…………………………………………」

 シェリー君は辛うじて支えられているが、限界を超えて顔を伏せていた。

 「ちょっと!それはダメでしょ!無しでしょ?どうすんの?ドクジーまた暴れたら私達じゃどうしようもないでしょ?無かった事にする気⁉」

 この村で一番戦力的な意味で強いのは言うまでもなく毒爺。しかも二番目以降があまりにかけ離れている故、毒爺が暴れて他の連中が制圧しようと抵抗すれば良くて被害多数、はたまた最悪全滅……なのだが、『確定全滅よりはマシ。』という考えだ。

 「オーイ、お前はいいから!」

 「良くはないって!モリーがここまで頑張って来たっていうのに何勝手に有耶無耶にしようとしてんの⁉無茶苦茶が過ぎるでしょ⁉」

 怒りを露わにした孫娘は禿頭の男に対して殴り掛かろうとして辛うじて踏み止まっている。正確に言えば『シェリー君を抱えているから出来ない』が正解だがね。

 「えぇい、たかが・・・学校の授業でこの村の命運が左右されてたまるか!」

 禿頭の男が、食って掛かる孫娘に対して遂に逆上して、絶対に言ってはいけない言葉を口にした。



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