終わったら、後片付けをしましょう。
最後に立っていた独りは変装を解き、ガラスの破片と撒き散らされた薬品を淡々と丁寧に掃除していく。
村長の家で未だに無口な若者は寝ているし、その他3人と診療所の主は診療所で気絶中。『強引に叩き起こす』という選択肢を持たない彼女らしく、真っ先にベッドを整えて自分を殺そうとした4人を寝かしつけて、一番の被害者は自分と縁の無い場所を掃除しているという、中々に珍妙な状況だ。
「シェリー君?」
「大丈夫です、気付いていますよ。」
箒を手にガラスの破片を掃除するシェリー君の後ろに忍び寄る影が一つ。
性根が腐り切っても元騎士としてのスペックは腑抜けの若者よりは高かった。
「ヘヘ、エヘΛヘλヘヘヘへへ……どうなさるおつもりですかな?」
老医改め毒爺はあっさりと不意打ちのアドバンテージを捨て去った。
シェリー君への害意があって行うならばそれは不可解な愚行だが、この男の頭の中は刺激を欲する狂気で満たされているために問題にならない。
実際今も杖を手にして襲い掛かりそうに見えるが、一切向かってこない。今なら未だ『背後を取る』というアドバンテージが一見すると有るにも関わらず、だ。
「『どうなさる』とは、どういった意味でしょうか?」
背後の声に臆する事も動揺する事も無く、淡々と床の細かいガラス片を掃いていく。
「現状が、ですよな。
この老骨がしでかした事を知るのは私と餓鬼共、貴方だけですぞぉ!
昨日逃亡した事で村の者からの心証は最悪。今更言い訳したとて、誰も信じはしますまいて?エヒ、へヒ工ヒエヘヘへヘヘΛΛΛ!」
シェリー君からは死角で見えないが、私の目の前には刺激の傀儡人形になった哀れな死に損ないが見える。
杖はしっかり握っている。片足が不自由ながらも安定した姿勢を取っている。しかし、目はシェリー君を見ていない上に引き攣った様な笑い声を上げて口から垂れ流される涎は綺麗にしたばかりの床に流れ落ちている。
「……正面から貴方の犯行の決定的証拠を見た人がそこに3人居ます。彼らも貴方の被害に遭った以上、私の犯行とは証言しないでしょう……もう、終わっているのです。
今更何がしたいと言うのですか?」
この毒爺は犯人である事が知れ渡る事を恐れていない。何故ならもっと重要な目的があるから。
刺激に飢えた狂狼が何をしたいか?何の為に動くか?それは1つだ。
「この3人を永遠に口封じしてしまえば、目撃者は貴方一人ィヒヒ……『シェリー嬢がこれをやった!』と私が村人に証言してしまえば、その時は、わかりますな?」
毒爺は一歩退がる。そして、今まで寝かされていたベッドの横、自分が殴り殺したはずの、しかし
「一息で眠る
3人を生かしたくば、私に本気で刃を向けねば!殺さん勢いで抗わねば!未来は無しぃ!
さぁ、このドクジーの走馬灯、最期の一場面に花を添えて貰いましょうぞ⁉」
ギラギラと、濁った眼を肉食獣の様に光らせて毒爺は吠える。
しかし、愚かで浅慮な快楽主義者には解っていない。
目の前にいるのは殺し殺される極限に快楽を見出す愚物を相手に4人の殺しを錯覚させ、一方的に、一手で、その狂人を無力化させた少女だ。
殺そうと思えば何時でも殺せるだけの
『もう、終わっているのです。』と、
彼女がやっているのは掃除。
既に結果は出て、もう終わったから
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