もっと刺激ある刹那を

 体は未だある。生きている。目の前が揺れ動いて稲妻が走っている様だが、先程から聞こえない筈の人の声が聞こえる気がするが、間違いなく掴んでいる筈の杖の感触が無くなる事があるが、居る。ここに居る。

 「『苦しめるのが好き』というのも違う。

 その手の人間はわざわざ毒なんて面倒なものは使わない。解毒して終わりの毒よりも、切った、抉った、刺した方がずっと良い。

 負傷した時の苦痛に歪む顔、治す時の苦しみと恐怖の顔の2つを楽しめる。

 何より、毒では自分が苦しめているという達成感に浸れない。苦しめる事が好きならば、自分で傷付ける事にこそ意味を見出す。」

 嗚呼、少しずつ、ゆっくり、近付いてくる。悪魔はもう私の前に居る。

 嗚呼、嗚呼、嗚呼…………

 「毒を盛り、人が死ぬか死なないかの瀬戸際に追い込み、それを自分の手で治す。

 あー、成程。自分の医学の腕をひけらかし、自分を拝む弱者を見て悦に入っていたのか。

 あー、成程成程、薄っぺらで詰まらない。その程度の三下か。

 詰まらない、そんな事の為にわざわざこんな面倒事を起こすヤツの気が知れない。

 まぁ、知りたいとは思わんがね。粗悪データにも満たないコレの中身を腑分けしたとて、役に立たない。」

 視界がハッキリ見える様になった。

 自分が掴んでいる杖の感触もハッキリ解る。

 数秒前まで全身の血が煮え滾っていたのに、今はすっかり引いているのが解る。

 先程までの汗が冷め、体の冷たさが加速する。

 「何故、何故解らない?」

 口が勝手に言葉を話す。

 「村に医学の心得があるのは自分ただ一人。援軍は無い。道具にも限りがある。薬にも限りがある。診療所のキャパシティーは10人もくれば満員。

 そんな状況下で起こる集団中毒事件。

 人は自分の最期を予感し、絶望し、錯乱し、苦しみ、周囲は泣き叫び、暴れ、縋り、正に命の瀬戸際を奏でている。

 そんな極限状況下、命の瀬戸際のあの緊迫感。一手間違えてしまえば命の悉くが砕け散り、死に絶えるその状況下。

 心臓が破裂する寸前まで爆音を鳴らし、頭は痛みで捩じ切れそうだと叫んでいるのに不思議と冴え渡って今見ている光景と行動、次に見る光景と行動を見せる。あの時の充実感、満足感、興奮、生きているという実感。」

 杖を握る手に力が入る。

 「何故それを解らない!あの時の輝く時間、私は満たされている!刺激に満ち、過ごす時、一瞬一瞬が全く違う刹那!それはこの村の退屈で同じで詰まらない日々を千年過ごすよりも充足感が得られると何故解らない!」

 最初、悪魔と話している時は今迄に無い緊張感に満ちていた。

 言葉の一音一音が得体の知れない怪物との、生きるか死ぬかの遣り取りを彷彿とさせていた。

 だが、最後の言葉はなんだ⁉あまりに退屈過ぎる!陳腐だ!なんのいみがある⁉

 そんなおもしろく・・・・・ないことはしない・・・・・・・・いきているきがしない・・・・・・・・・・

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