スバテラ村 回想その2
「誰か、居ないのか?僕達と一緒に邪悪に立ち向かおうとする大人は居ないのか⁉」
診療所の中に声が響く。
老医師ドクジーは先程から診療所の中を文字通り縦横無尽に動き回り、一人で対処を行っている。
村長は致命的状況から抜け出したばかりで到底話をする事は出来ない。
それ以外に居るのは、全員毒で倒れたからこそ、ここに居る人間ばかり。
そして、村の人間のシェリー=モリアーティーへの心証。今それは総じて良いとも悪いとも言えない状況にあった。
シェリー=モリアーティーはアールブルー学園から来た救いの手だと思っていた。
だからこそ、その勝手な期待を裏切り、子ども達を森へと連れ出し、毒を混入させた文字通りの毒婦だと思っていた。
しかし、昨日今日と彼女が診療所で行った行為を見た事が人々の心を動かし、判断を鈍らせる。
本当にシェリー=モリアーティーは毒婦なのであろうか?毒を盛って自分達に危害を加え、それを治して人々からの賞賛を浴びようとする人間なのだろうか?と。
昨日も今日も、苦しむ自分達に向き合い、汚物に塗れ、暴言を吐かれ、妄言を呟き暴れる人間から彼女は逃げなかった。
悪意に満ちた人間はあそこまで真剣に人を救おうと出来るのだろうか?
凶器を突き付けられ、自分の命が風前の灯火であっても治療を止めなかった人間は打算や計算で動いているのだろうか?
毒の治療が終わってなお消耗した肉体を酷使するという事に積極的になれないというだけでなく、自分達の為に先程まで鬼神の如く診療所を駆け回り、汚れ、それを気にする事なく人への慈愛で動いていた人間を邪悪と断じる事が出来ない。
「誰か!居ないのか?自分達が襲われているというのに黙ったままなのか?抵抗もしないのか?腰抜けなのか?この村の人間は何時からそんなに腰抜けになった⁉」
オーイは目の前で苛立ちが渦巻いているのが解った。
若者達は診療所でシェリー=モリアーティーが何をしていたかを知らない。だから原因が解らない。
『自分達が襲撃した時にシェリー=モリアーティーが何をしていたか?』そこから考える事も無い。想像出来たとしても、考えたくないから半ば本能的にその可能性を否定している。
苛立ちは渦を巻き、加速し、荒んでいく。
「誰も居ないなら僕達だけで僕達の村を守る!何時からこうなった⁉」
癇癪を起す様に診療所の床を蹴り飛ばし、他の三人を引き連れて診療所から出て行こうとする。
「ちょっと待って、どうするつもり?何をする気?」
それを止めたのはオーイだった。
振り返ったその
「決まっているだろう?アイツが使っていた家をまた家探しする。
今朝は見つからなかったそうだが、きっと何処かに隠してある。探し方が悪かっただけだ。
カバンから何から全部バラバラにすれば動かぬ証拠が見つかるさ。
見つからなくても、全部
見事な愛想笑いの仮面。しかし、穴が開いている目の部分だけは全く笑っていなかった。
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