作ろうと思った衝動でそのまま作った


 自称そこそこ天才の提案でハチミツたっぷりの甘いホットミルクが食後のデザートとして出されている。

 「言うタイミングを逃してしまいましたが、改めて助けて下さり有難う御座いました。」

 ホットミルクの入った陶器製のマグカップを置き、頭を下げる。

 対する自称そこそこ天才は湯気立つココアを年代物のワインでも嗜むかの様に、うっとりした表情で楽しんでいた。

 「いやいや大した事はしていない。集音装置に妙な怪鳥の鳴き声が入ったから丁度作ったドローンの試運転を兼ねて、ついでに見かけてピックアップした……そう考えて貰って構わないって。

 あぁ、そういえばコイツ・・・の性能はどうだった?」

 そう言って指先で天井を指し示す。すると、羽音と共に自称そこそこ天才の後ろから金属と布で構成された蝙蝠もどきが飛び、指先に止まった。

 村から逃亡する際に使われた魔道具。超音波を利用した指向性スピーカー、通信機能、飛翔性能、更に指定した対象の動きと自動で同調する操縦機能。丁度作ったというには性能があまりにも過積載。これだけの性能の物が大量生産可能だとしたら、試作品段階で軍事バランスを崩せる。そして何より問題なのは……

 「あぁ、これじゃなくてもう一つの方も忘れていた。」

 そう言って何もない様に見える場所で何か薄いものをつまむ真似をする。同時に何も無かった場所に薄布が現れる。

 そう、シェリー君が連中とやり合わずに消える事が出来た大きな要因だ。

 「『幻燈』の魔法……ではありませんよね?」

 光の屈折を魔法によって意図的に操作し、己や己が指定した領域に意図した風景を投影してあたかもそこに誰も居ないように、何も存在しないように、存在しない人が居る様に、無い物が存在する様に見せる事が出来る視覚情報操作魔法、それが『ファンタズマゴリ』。

 非常に高度で、これを使用出来るという事は、魔法に対して一定以上の技術を持っている事の証明にもなる。ちなみに、これを補助・発動する魔道具が存在し、それを作ったのは他ならぬアールブルー学園の卒業生。魔法自体や魔道具に関する研究資料はある程度図書館淑女の私物にあった。

 だからこそ知っている。薄布一枚にその高度な魔法を詰め込むのは困難を極めている、と。

 「君が持っていた布を見て少しだけ閃いて、私も得意分野を布に押し込んでみた。

 布表面を加工して周囲の景色を投影する、この家と同じ仕組みだ。

 『幻燈』と違って難易度も消費魔力も低いが、それでも布一枚に押し込む関係上、如何せん透明化の持続性が低いのがネックだ。

 だからこのドローンにバッテリー役を今回は担わせた。」


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