自称そこそこ天才が贈る霧の燃焼実験

 水面は濃霧で覆われて見えなくなっている。しかし、ポコポコと泡が水底から湧き上がってくる音が聞こえ、それに対応するように音源近くの霧が下から持ち上がる。

 「最も多くのガスが発生するのがこの池。色は見ての通り。匂いは知っての通り無し。比重は空気より重く毒性自体は無し。しかし、調べた所、非常に有用な動力源となる事が分かった。」

 そう言って何処からともなく人間の頭蓋程の大きさのガラスケースを取り出した。

 ガラスケースは密閉されて、中にはシェリー君の人差し指程の大きさの金属製の人形が入っていた。

 ケース下に配線と装置が取り付けられ、装置はガラスケースの内外に跨る様に取り付けられていた。

 そして、それらはケース側面のスイッチと繋がっていた。

 「これは耐熱、耐衝撃性の強化ガラスケース。

 今、これの中にはこの霧を主原料とした気体がある程度の濃度封入されている。中身の人形は鉄製。

 で、これに……火花をこうして……」

 ケース側面のスイッチを押す。

 装置から火花が散った瞬間、ガラスが遮光板のように黒く染まり、その黒の向こうで白い爆発が見えた。

 見事なものだ。小さなケース内の現象とは言え、見えた規模から予測されるエネルギーが本来生み出して然るべき熱や音、衝撃が一切こちらに伝わってこない。

 「安全グラス不要。内側で爆発が起きても外へは衝撃も音も熱も伝わらない。

 オマケに強い光対策で遮光機能もあり。これもこの僕の発明。」

 ガラスの色が元に戻り、見えた光景。中にあった筈の鉄製人形は消えて無くなり、僅かにケース内部が汚れていた。

 ものの見事に蒸発していた。

 「さて、発明は後程紹介する時間を必ず取らせて貰うとして………このガスは見ての通り、最大限扱えば凄まじい爆発力を生み出す。しかし、面白い事にこうすると……」

 そう言って指先から魔法で火を放り投げる。向かった先は池の水面。霧の中に橙色の小さな光が消えていく。

 ガラスケース内部の惨劇から素直に判断すればその行動はこの場にいる知り合ったばかりの二人の人間を発明ごと炭化させ、灰に変え、村も消し飛ぶ。

 しかし、その時は10秒経っても訪れはしなかった。

 「驚かないみたいだね。」

 少し満足そうに、少し不満そうに、シェリー君を見ながら眉を上下させる。

 「そのケース内部と同じ出来事がこの規模で起こってしまえば、我々は無事では済みませんからね。

 更に、わざわざ『霧を主原料とした』という文言を入れている所を見ると、この霧にそのまま着火してもその惨劇は起こらないのでしょう?

 何かしらの加工を施し、条件を揃えた時にだけ、先程の爆発力はもたらされる。ですよね?」

 「大気中で自然発火する事は無い。雷が来ようが山火事が来ようが、一切爆発することは無い。

 特定の手順を踏み、一定濃度で着火しない限りは燃えもしないが、条件を揃えると先程の様に爆発的に燃え上がる。」

 「成程、それは興味深いですね。」

 あぁ、確かに興味深い。面白い性質もあったものだ。

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