自称そこそこ天才と考える
自称そこそこ天才のジーニアス=インベンターはそれまでの雰囲気が別人のものであるかのように黙り、真剣な目で、シェリー君の体験した出来事を聞いていた。
質問を挟む事も相槌を打つ事も、茶を飲む事も菓子を口にする事も無い。ただただ黙って、しかし真剣にその話を聞いていた。
森に出た怪物の噂から始まり見知らぬ誰かが直近で被害に遭遇した事、そして昨日シェリー君が実際に心臓を吹き飛ばされかけた事まで、一通り話し終えた。
自称そこそこ天才は話が終わった所で目を瞑り、眉間にしわを寄せ、一つ短く唸って目をカッと見開いた。
「結論から申し上げよう。
先ず、それは私の作ったものがやった事ではない。今まで作ったものは全てこの頭に入っている。が、該当する物は存在しない。そして、今回の暴走の件が有るから説得力は無いかもしれないが、市井に殺戮を撒き散らすものを作りはしない。決してだ。
誤作動の可能性や意図しない効果の発生も考えたが、何せ僕がこの辺りに来たのは三カ月ほど前。発端となった事件の確認を考えると計算が合わない。勿論、過去に起きた事件の模倣をした可能性もあるから直近の件は証明出来ない。今証明する手段は無いが、それは信じて欲しい。」
「勿論信じますよ。だから私は今日こうして正面からご挨拶に来たのです。ご安心を。」
「……感謝する。」
本当に殺戮をしたいとこの自称そこそこ天才が本気で思い立ったのなら、あの村はとっくに壊滅していた。
これだけのものがあれば、ある程度の大きさの都市であったとしても、光学迷彩を駆使して誘拐と殺戮を気付かれずに繰り返せる。この村ならば証拠一つ残さず一晩で消せる。
見えない腕で一人一人物理的に潰していけば連中に抵抗手段は無い。それはシェリー君もそうだ。
この性能の魔道具が自動ではなく構造を知り尽くした人間が本気で操り殺しにくれば今のシェリー君では敵わない。
そもそも、殺戮を考えている人間ならこの茶会の段階で殺している。
殺戮者として当て嵌めるには目の前の男は歪過ぎる。
今、目の前で男はブツブツと自分の世界に入り込んでいる男はシロ……無罪で無実だ。
「ガスによる酸素欠乏症とも考えたが……最初の事件で馬車が壊れているという話に矛盾が起きる。
ガス爆発?だとしたら火災や爆発の痕跡が発見されていた筈。どういうことだ?データが足りない……」
「あの、ジーニアスさん。
先程から気になっていたのですが、この霧……ガスの正体は一体何なのですか?
私は昨日これに気付かず吸い込んでしまったのですが、正体をご存じなのですか?」
「?
このガスならそこに……」
そう言って自称そこそこ天才が示したのは池の水面だった。
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