自称そこそこ天才の発明品自慢

 「そういえば、この…『家』というのは何なのでしょうか?」

 カップをテーブルに戻したシェリー君は切り込んだ。

 光学迷彩、多脚で木の上を高速移動、高耐久性、その上これだけの重量にあれだけの動きをさせて静音駆動可能。おまけにティータイムのサポートまで完璧にこなす。

 子どもに秘密基地自慢をするには行き過ぎた性能。家としても異常。軍事目的なら辻褄は合うが、これだけの性能は今のこの世界の技術を鑑みても破格と言える。要は個人で持つには余りある挙句にあちこちの軍事方面の関係者が放っている訳がない。

 「ふふん、よくぞ…よくぞ聞いてくれた。

 これはこの自称そこそこ天才ことジーニアス=インベンターが身の回りにあれこれと起きるしがらみから逃れ、純粋に発明に打ち込むために造り上げた隠れ家!

 やれ『あれを作れ!』・『これをやれ!』・『これを変えろ!』・『こうしろ!』・『あぁしろ!』……と一丁前どころか十丁前に口出しや注文をする癖に自分は何もしない、おまけに対価は払わない鬱陶しい連中に愛想をつかした僕が自腹で、自作した隠遁秘密基地だ!

 この家に付いているアームは全て取り外し可能。数が半分になっても平地移動に限れば速度に影響は無い。馬車程度ならぶっちぎりでバックミラーから消してくれる!更に先端部分は木の上も移動出来る様に特殊な鋏構造を採用している。木に傷を付ける事なくこうして移動だって出来る。

 表層は外部の映像を自動で解析し、自分にその映像と同化する映像を絶えず移す事で疑似的な透明化を可能にしている。オマケに駆動系は静音重視で無音状態でも無い限り獣にも気付かれない!

 そして、表層は二重構造。たとえ僕を引きずり出して悪趣味な魔道具を作らせようと試みた粗野な連中が殴ったところで衝撃に対して本体を守る様な構造になっている。生半可な衝撃なら凹み一つ付かず、返り討ちに出来る。たとえ凹ませても二層構造。おまけに二層とも共通して光学迷彩機能を搭載しているから、そもそも逃げ切れる。

 これらを自動で運転し、外敵には自動迎撃(これは昨日の失態を反省して改良中)、そして動いている間でも中の居住部分は地面と何時でも平行になり、揺れも軽減される様になっている。

 他にこの規模のものを作った人間は中々いないだろう。えっへん!」

 指先で菓子を摘まんだ状態のまま、天を仰ぎ、背中を反らし、空いている方の手を胸に当て、胸を張り、力作の芸術品を見せる子どもの様な顔をした。

 「少なくとも学園にこの様な大規模な魔道具…?を作れる方は一人・・居るか居ないか程度でしょう。」

 シェリー君と私の頭に同じ人物の顔が浮かび上がる。

 作るか作らないかで言えば『作らない』が、『作れる』人間は思い浮かぶ。

 「ふむ、矢張りこの国のトップクラスの人材と脳みそが集まればそこそこ天才を超える真の天才は現れるか。面白い、何時かその方の発明を見てみたいものだ。」

 男の目は完全に楽しい友達を想像する子どもの目だった。

 「……おそらく、ジーニアス様の考える様な人物ではないかと…」

 「じーにあすさま、ジーニアスサマ…ジーニアスさま、ジーニアス様!

 悪くはないが、『様』は堅苦しすぎるシェリー嬢。

 呼び捨て、それが心苦しいなら『さん』付け、あるいはそこそこ天才と呼んで欲しい。」

 「では、ジーニアスさん。

 確かに作れそうな才覚の持ち主は学園におりますが、かの淑女はそれを自分の為に使おうとはあまりしません。

 ですので、このような大掛かりな物を作る時、それは学園…つまり教え子に必要だと考えた時にだけだと思います。」

 「ふむ…残念だ。非常に残念だ。一度話をしてみたいものだ。そんな天才が在野に居るとは……発明家の世界は一人綺羅星の如き天才を一人喪っていたのか……」

 手に持っていた菓子を口に、そしてカップを傾けた。

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