やっと報われた努力
愉快な茶会は続く。
学園では茶会と書いて『
茶も茶菓子も絶えない。会話も笑い声も絶えない。そして、互いに口にはしていないものの、交互に一つずつ質問を繰り返すというルールで茶会は順調に続いていた。
「アールブルー学園というとあのお嬢様の集まる所か……そこのお嬢様がどうしてここに?」
「校外にて社会貢献をするという課題が学園でありまして、私はスバテラ村に来た次第です。それと、私は特待生であって貴族ではありません。寂れた村の村娘ですよ。」
男はそれを聞いて口に運ぼうとしていたカップの動きを止める。
「おぉ、驚いた。テーブルマナーや動きが洗練されている人間のそれだったからてっきりお嬢様もお嬢様だと思っていた。」
「………そう言って頂けると、マナーを学んだ甲斐がありました。
有難う御座います、本当に。」
シェリー君にとってお嬢様学園のマナーは完全な異文化。学ぶ前は全くの無知。ゼロからのスタートではあるがしかし、あの学園でマナーとは剣であり盾であり、酸素であり食事でもある。不備があれば好機とばかりに徹底的に叩かれ、潰される。
しかも学園の連中は『そんな事は関係有りませんわよ!』とばかりに無知への寛容は一切無い。教えてくれる親切な淑女も居ない。
だからこそ、必死に学んだ。手に入る書物をひっくり返し、観察力を駆使して名高い貴族の娘を手本にして模倣。
小賢しい?猿真似?浅ましい?恥知らず?その言葉に対して私が答えられる言葉はたった一つ。『馬鹿な事を言う。』だ。
人の営みが始まって幾星霜。今や未知のものであっても何かしらの真似になる可能性は大いに高い。
男が女に、女が男になんて話は千年単位で昔にあるし、自分の居た世界とは別の世界に行く人間の話も数多存在するし、身分の低い者が成り上がる所謂シンデレラストーリーも数多ある。悪意ある模倣であれば罰されるが、マナーを真似するその行為に責められる道理は無い。
そうして必死に孤独な研鑽を重ね、ゼロから形を生み出し、面倒なマナー警備官の視線を潜り抜けてきたシェリー君。しかし、そこに達成感は全く無かった。
『出来て当たり前。』・『下民風情が真似事をして見苦しい』・『指先の動きが致命的に誤っている(誤っていない)』・『何あれ、あれで私達と同じになったとでも思ってるの?笑える。』……報われない陰口だけだった。
だからこそ、今、初めて彼女のこの努力は報われていた。
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