名探偵淑女の華麗な思考
アジトの中、地面で悶絶する粛清された者達を避け、とある場所へ寄り、そうして淑女と少女は陽光照る外へと出た。
「馬は少し離れた場所に待たせてあります。そこまで歩きますよ。」
「は~い、分かりました。」
淑女の言に対して呑気に答える少女は、実は今まで監禁されて奴隷にされる寸前だったのだと言われても信じ難い。
「……ミス=フィアレディー。遅れてしまい恐縮ですが、此度は私の不手際でお手を煩わせてしまい、誠に申し訳御座いませんでした。」
呑気な少女は何時もの寝惚けた笑みを、コルネシア=アルヒィンデリアという少女を一時だけ仕舞い、宰相の娘として、貴族の一員としての姿を現す。
「謝罪は不要です。」
ただ一言。勿論それで謝罪が済む筈が無い。アルヒィンデリアはそれに対して食い下がろうとして……止めた。
(わぁ~、怒っていらっしゃるわぁ。)
宰相の娘と貴族の一員が引っ込んで、少女のコルネシア=アルヒィンデリアはそう感じた。
姿勢や表情は一切変わらない。揺らがぬ、曲がらぬ、強くしなやかな淑女の体現。教科書の見本さえ霞む様な素晴らしき手本を体現した様な淑女である。
が、彼女から淑女の何たるかを教えられてきた少女は何時もの淑女と違うものを感じていた。
それは貴族の世界で生きていたから出来た事ではなく、彼女の能力でもなく、単に教え子の経験から分かるもの。
何時も以上に張り詰め、しかし一切切れる気配の無い緊張感を感じた。勿論普段から廊下の向こうから感じ取れる様な緊張感を纏っている。それを承知で感じる。
(明らかに違うわぁ……どうしましょう、退学かしらねぇ。でも補習のお話はしていたし、大丈夫だと思うけどぉ………)
下手に手を出せば出した手だけで無くその手の持ち主を切り刻む様な重く、鋭い、殺意や憎悪、貴族のドロドロの方がもっとマシだと思う程の緊張感。
だから少女は淑女に食い下がる事が出来なかった。
淑女は苛烈に激怒し、そしてそれを一切表に見せていない(無論、元々傍から見れば常日頃から怒っている様に見えているのだが)。
しかし、鏡の様な水面の下は人を水底に引きずり込む様な激流の渦である。
無論、今回の一件。コルネシア=アルヒィンデリアの誘拐が一因である。今正に己が手で壊滅させた犯人グループ、協力した町の人々、自分の境遇を深く考えずに油断したアルヒィンデリア本人、そして不甲斐無い自分に対しての怒りを抱いている。
それ以上に。
(最初から違和感がありましたが、矢張り衝動的にしては手際が良過ぎますね。あのアジト自体は元々有ったものですが、生徒を確保してからの流れが異様に手馴れています。手馴れ過ぎていると言って良いです。)
違和感の根源こそが怒りの本性だった。
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