淑女に必要なものは何か?4

 ミス=フィアレディーの鞭術は独学と特殊な環境から生まれた技術である。

 先ず、腕の仕組みから違う。仕事の高速化の為に常日頃魔法によって肩から先の筋肉と骨、更に神経を強化して使っていた結果、一代限りの進化を果たした。

 常に発動される魔法と負荷に肉体が順応していった結果、骨や筋組織の太さはそのままで魔法を最適に使用する形に、高い強度を獲得した。

 そして、本人の早送りをしている様な仕事量、正確にはその速い世界に曝された神経もその速さに順応していった。

 魔法を使い続けた結果、肉体を強化する系統の魔法に関する熟練度は最早歴戦の戦士に引けを取らない。非常に静かで、迅速で、最適化された魔法は手足の機能の延長として働く。

 これを長年続け、順応した肉体は更に加速し、更に強くなり、それに慣れた・・・

 最終的に、細身であるにもかかわらず、驚くべき膂力とそれに耐えきる肉体。効率の良い魔法の行使と発動速度。最後にそれらを活かす反射速度を獲得している。

 アールブルー学園元剣術教師の様に魔法の使用で自傷する事はない。そもそも貧弱な人間が魔法を使用した場合の能力よりもかの淑女の魔法無しの純粋な身体能力の方がずっと優れている。

 そして、当然ながらこれは後天的なものだ。




 その優れた身体能力と魔法の制御能力。これらを淑女は学園という特殊な環境で使っている。

 複数の人ごみが存在し、縦に長く幅や高さが制限された空間。

 本来、鞭を使う環境としては適していない。が、骨を折らず、出血も無く、しかし派手に音が鳴って、仕置き・・・にはうってつけ。

 故に淑女はそんな狭い空間で鞭を使う術を模索し、最終的にいたった。

 後天的に強化された腕を、自壊しない程度の魔法で瞬間的に更に強化し、鞭を一直線に伸ばして空気を炸裂させながら最短距離を走らせる。

 人ごみの中、逃げようが他者を盾にしようが魔法で迎撃しようが巻き添え無く、たった一人の狙った一点だけを一度、手加減・・・して打ち据え、伸び切った鞭を手首の返しで引き戻す。

 速過ぎて鞭を見て回避する事は出来ない。

 予備動作が殆ど無く、予備動作を予期して対応する事も困難。

 幾千幾万と振るわれた鞭は相手の動きを予知して的確に正確に一点に痛打を与える。

 どころか、鞭の動きを正確に制御して絡め取り、相手の持ち物を奪う事さえ可能とする。

 学園生徒にはこれを攻略せんと敢えて挑みかかった者が居たが、無論全員が炸裂音と共に粛清の憂き目に遭っている。

 淑女にそぐわない生徒を淑女の鞭は許さない。

 淑女を害する者を淑女の秩序たる淑女の鞭は許さない。

 淑女の矜持が内包された鞭は教える。淑女とはしなやかで鋭く、確固たる強さを持つ者であると。




 その強さが今、魔法を切り裂き、小さな毒針を空中で叩き折り、鉄格子の犇めく最中を縫って的確に鞭を命中させ、どころか鞭で掴んで一方的に攻め立てている。

 「なんで淑女がこんな事出来るんだよぉ⁉

 聞いてねぇよぉおおおおおおおお!」



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