ファンタズマゴリ


 魔法には幾つもの種類があり、使用者の知識、理解、工夫、魔力量等によって奇術レベルから奇跡と間違うレベルまで様々なものが生まれる。

 そして、歴史と伝統あるアールブルー学園では当然の様にこの魔法をカリキュラムとして組み込み、奇跡の間違うレベルとは言わずとも一般的な魔法とは一線を画する水準の魔法行使が出来る事を生徒に求める。

 他人に教えるには当然、自分は他人に教える以上の知識と理解、工夫が必要になる。

 コインの音色と輝きに怯え、『金の亡者』から『金に亡き者』にされつつある前学園長は自らに何処までの魔法能力を求めていたかは解らない。

 が、現アールブルー学園の学園長が一体どの程度を求めているかはその能力を見れば容易く解る。


 『最低限


 生活に使うものから特殊技能として分類される特殊な魔法、術式から魔道具作成から果ては軍事に纏わるものまで。

 魔法だけでなく、この世に存在するものを網羅的に、『最低限』の水準で習得する事を自分に課した。

 ありとあらゆる分野の人間の経験や知識、積み重ねた全てを学び、己の能力として十全に、最低限最高峰で振るえる様にした。

 彼女の身分を知らない者は彼女の知識と理解の深さを見て、自分と同業か同質、同じ界隈の専門家だと誤解した。

 身分を知る者は彼女の能力に驚き、何故自分達の世界に来ないのかと嘆き、首を傾げた。


 そして、由縁を知るものは知っている。

 『生徒が望むのであれば、ありとあらゆる専門家を直ぐにこの場に用意しましょう。

 探す必要も、手紙を書く必要も、向かう必要も迎える必要もない。

 望みを口にした瞬間、そこに専門家が立ち、教鞭をとりましょう。』

 それがアールブルー学園学園長、恐怖の淑女、万能を紡いで一と為して無限の可能性へと拡げた、ミス=フィアレディーの姿であると。




 話を戻そう。魔法には幾つもの種類がある。という話だ。

 フィアレディーは生まれながら魔力に恵まれ、慢心無く、努力を惜しむ事なく、ある日を境に容赦無く己を磨いて来た。

 その結果。

 光の屈折を魔法によって意図的に操作し、己や己が指定した領域に意図した風景を投影してあたかもそこに誰も居ないように、何も存在しないように、存在しない人が居る様に、無い物が存在する様に見せる事が出来る視覚情報操作魔法、『幻燈ファンタズマゴリを容易に行使出来る様になっていた。

 絶えず繊細な魔力行使をする必要があり、常に魔力を使う関係上非常に大量の魔力を消費し、そもそも『違和感無く見せるレベル』または『違和感なく見えないレベル』の『幻燈』の行使には補助魔道具や術式が必要であり、そもそも考案者は国家間の情報収集や隠密に利用する事前提としていた超高難易度魔法を使える様になっている。

 ちなみに、『幻燈』の魔法は周囲の光を屈折する事で効果を発揮する性質上、動くと投影した領域から出る事になる為、当然静止状態で行う事が大前提である。

 馬で町を離れ、馬を置いて魔法を行使しつつ町まで戻り、足音一つ立てずに魔法の行使を絶やさず歩いて戻り、誰にも気付かれずにチンピラ男の目の前にまでやってくる事を前提とはしていない。決して!


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