風呂敷の名前
木の幹は本来目に見える。そして木の幹は成長して大きさが変わる、細いものや種類によっては風に揺られて動く事もある。
しかし、木の幹が浮き上がってこちらへと迫ってくるという現象を私は体験した事が無い。
無論私の知らなかった魔法という法則があり、私の知らない未知の植物が多数存在する事を図鑑でとはいえ知っている。
その中に動く植物は存在した。生物の目を欺く植物も存在した。しかしそれを両立した植物の情報を私は持っていない。
「
危険を感じたシェリー君がそう叫びつつ全力で背後へ飛ぶ。
一端は不可視の何かに巻き付いたまま。しかし
通称は風呂敷。表向きは防水布や幌として、あるいは梱包用に織られた一枚布。ある程度であれば形状を選ばずに梱包が出来る上、不要な時は折り畳んで仕舞うことが出来、洗濯可能で再利用に際して衛生的。非常に便利な商品となっている。
が、これは特別製。展開可能で強靭。魔力によってある程度の立体形状を作り出す事が出来、グライダーやロープ、簡易防壁、
そして
防壁だったものがしなやかにシェリー君の体に巻き付いていく
鎧と言うにはあまりに薄っぺらで虚ろ。
布は拳を防がずに中の骨を砕くだろう。
布は刃で切り裂かれ、中の柔肌ごと骨ごと断たれて血華を咲かすだろう。
魔法において浅学菲才ではあるが、布は魔法を容易く通す事を知っている。
しかし技巧と知識と工夫は布を剣に抗う盾にする、拳を止める壁に帰る、魔法に抗う護りとする。
風呂敷がシェリー君の体を殆ど覆い尽くした。残っている布の一端が見えない何かに絡み付き、居場所を教えている。
「ふッ!」
振り子の移動距離がシェリー君の退がった分の距離をゼロへと近付けていく。
これ以上退くか?違う。布に覆われ、固められた拳が見えない何かを完全に捉える。
音は鈍重で響かない。見えはしないがヒビすら入っていないし動いてもいない事が解る。
殴ったものの材質は金属、しかも相当に頑丈で重い。少なくとも馬車三台の重量は超えている。
シェリー君のビクともしない何かはしかし、煩わしいとばかりにシェリー君を蹴散らす。
「ぐぅ…」
ここで問題だ。馬車を超える重量が少女を蹴散らしたとしたら、どうなるだろうか?
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