少女は考えている


 森の怪物。

 過去に馬車を破壊し、人を襲った狡猾な正体不明の存在。

 森の木の枝を折り、人を襲い、それでもなお正体を掴めていない相手……。

 それ以上の情報を私は持っていません。

 私が来たのはあくまでも課題。学校の提示した条件は二つ、『淑女たれ』・『貢献』。

 怪物退治をする義務はありません。命の危機がある場所へわざわざ飛び込む意味もありません。

 それでも、自分より小さな子ども達を危機の最中に残したまま学校に戻って、勉強をして、そこで優秀な成績を残せたとして、皆に認められたとして、教授からの知識と経験を元にあらゆるものを手に入れたとしても、その私は決して胸を張っていないでしょう。

 だからこそ、私は全力を尽くさないといけません。




 「森の中で怪物退治をする事だけが何も大冒険ではありません。

 オーイさん、この村で何か起きた『いつもと違う事』はありますか?

 彼らには怪物退治の情報収集と事件解決をお願いすることにしましょう。」

 危険なブラックボックスになっている森の中に子ども達を行かせる訳にはいきません。かと言って、大人達が緊張感で苛立っている最中、家に閉じ籠っておけというのは余りに酷過ぎます。

 もし、そんな事を言ってしまえば彼らは森へ入るでしょう。

 そんな中で万一彼らに危機が迫ったら……と考えると。

 私は正直、それがとても怖いです。

 教授の様に自信と余裕に満ちて冷静に居られる事が羨ましく思う事があります。




 「ん~、自称若者軍団達が化け物退治とか言って廃宿に突っ込んで壁ぶち壊して二階から二人くらい落っこちてギャーギャー喚いた挙句、怪物の正体が昔お客さんの子どもが描いた絵だったって話とか?

 手と足折ってギャーギャー喧しくてドクジーがキレてたよ。

 それやってみる?自称軍団と違って壁壊す事は無いだろうし、私もそこそこ絵は描けるから協力出来る。

 モリーは絵とかイケる?それならやってみてもいいんじゃない?」

 「そうですね。廃宿の状態によっては考えても良いかもしれません。

 破損状況によっては事故の可能性もあるので、その辺りは警戒した方が良いかな?……と。」

 「ん-、それもそうか。

 自称軍団がやらかした事を考えると床抜けたり天井落ちたり……は危ないもんね。

 んー、後は毒キノコに中ったりギックリ腰になったり寝小便したり……

 しょーも無い事ばっかりだなぁ。

 良くも悪くも事件が無いのがこの村だから。

 まー、だから昨日みたいな事が起きると騒ぎ出すしピリピリするんだよね。」

 サンドイッチを食べ終えた孫娘が頭を抱えた。

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