心奪われる子ども達



 手を口元に、辺りに誰も居ない事を確認するようなポーズをして、あたかも重大な秘密の話をする様に3人に話す。


 「私、実は怪物退治をした事があるんです。皆には内緒ですよ。」

 「凄い!」

 「すごいでしょう?」


 「どんな怪物⁉」

 「色々いましたよ。ここよりも大きなクマとか、ヘビとか、石の巨人とか…」

 「わぁ‼」

 少しだけ大袈裟に身振り手振りで、これまで自分の身に起きた出来事を誇らしく言って魅せる。


 「どうやって倒したです?お話に出てた伝説の剣です?」

 「秘密・・必殺・・魔法・・を使ったんです。使える事はヒミツですよ。」

 「秘密の、必殺の、魔法、です……」


 今度は口元に人差し指を当てて微笑んで見せる。

 先程までの怒りはどこへやら、魅力に溢れた未知の宝物を見つけた様な顔でキラキラシェリー君を見つめる。

 「さて、怪物退治にも準備が幾つかあります。

 皆さんにも手伝って貰いたいので、また明日。ここで朝から作戦会議・・・・を行おうと思います。

 作戦会議・・・・に出る人は?」

 悪戯っぽく微笑んで見せるシェリー君に対して3人とも空を切る素早い挙手で肯定。

 『怪物退治』・『作戦会議』という聞き慣れない、しかし魅力的な言葉を前に胸を弾ませて今にも飛び上がりそうである。

 「では、今日は一先ず家に帰って寝る事にしましょう。

 明日お寝坊をした人は、会議が出来ませんよ。」

 「おやすみなさい!」「はい、お休みなさい。」

 「明日一番に来ても良い?」「えぇ、ただし、朝ご飯はちゃんと食べてきて下さい。」

 「また明日です。」「はい、また明日。楽しみに待っていますね。」

 3人が家を飛び出す。

 「オーイさん、3人に付き添いをお願いします。」

 「……え?」

 孫娘は呆けて何を言っているのか伝わっていない。

 「私では彼らの家が分からず付き添いが難しいのでお願い出来ますか?」

 「あ、うん、分かった。

 あぁ、お菓子、ご馳走様。」

 そう言って急いで子ども達を追いかける。

 もうすっかり外は暗くなってしまっている。

 「教授、私がこの村に来て何をするか、決まりました。」

 「の、ようだね。そこそこ愉快・・な事だ。」

 「そこそこ愉快、ですか……」

 琥珀色の飴がこびり付いた鍋を片付けながら考え込む。

 『森の怪物』だの『化け物』だの言われていた輩が枯れ尾花の類では無い事が今日の件で証明されている。少なくとも現在、この近辺に悪意や害意を持ったものがいる。

 『人の思い込みや見間違いから生まれた幻想の怪物』ではない。実害が発生している。

 『廃村寸前の村でわざわざ怪物騒ぎを起こし、風評被害を撒き散らして止めを刺す。』というのも筋が通らない無理矢理な考えだ。

 村を訪れて僅か一日と満たずに熱烈なハプニングが歓迎。

 あぁ、まったく愉快な事だ。実に、愉快厄介な事だ。


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