仕事快楽者
鍋の飴は落ちた。
学園から与えられた課題は終わった。
明日の『作戦会議』の準備は終えた。
夜も更けて外からの音が消えていく。睡眠時間を削るのは非合理的が過ぎる。
あとやるべき事は……
「手紙、ですね。」
手紙の術式を今の内に送っておけば場所が登録されて以後商会への連絡が速やかに行える様になる。
三ヶ月も連絡が無ければあの三人が飛んでくるリスクが発生する。
それはありとあらゆる方法を駆使して避ける!
更に言えば、経営を三ヶ月も放置した素人軍団がどうなるかは言うまでもない。この村と同じような惨劇になる。
最近になって熟練商人のイタバッサという男をヘッドハンティングして、それから右肩上がりになっていることは聞いている。実際に商会のデータを見たが、当初と比較して利益が5倍を超えている。
過去の男の評判は『優秀で忠実な右腕』だ。
しかし、副会長から送られてくる手紙の数々には呪いの言葉と恐怖と救いを求める言葉がちりばめられている。
イタバッサという男が前の商会で抑圧され、モラン商会にて解放され、今まさに封印を破壊した怪物と化している。
誰よりも働き、誰よりも成果を出し、それに何より喜びを見出しているのは本人である。
止めたいのは山々だが嗜好品に溺れるが如く仕事をしている様は恐怖であり、実績が有る為に止めるに止められないという話だ。
「イタバッサさん。非常に助かるのですが、とても心配です。
このまま過労や病気で倒れてしまっては元も子もありません。いっその事経費で『観光地調査』と称して旅行に行って貰って強制的に働けなくする事も視野に入れませんと。
副会長他幹部の方も無事では済みません。」
この男の悪質な点は『手段であるはずの仕事』で私生活が費やされている訳ではなく『娯楽目的の趣味の一種』を仕事と私生活の両方で楽しんでいる点だ。
組織側に投薬されて中毒死しそうな中毒者ではなく、自分で劇物を生成して余剰分が組織を毒殺しかけている。
有能である事が性質の悪さを加速している。
一般的な対策では到底太刀打ち出来ない。
「商会もお陰で急成長した。資金に余裕はあり、一週間ならば回る。というか、このままではパンクするな、人間側が。」
「では、遠方の温泉に観光調査を命じる様に副会長にお願いしましょう。
観光事業や観光地の需要供給を調査する目的という名目であれば拒否はしないでしょう。」
シェリー君の考え方は確かに間違いではない。
このままでは副会長を筆頭に内部から悪意無き商鬼によって食い破られる。一度態勢を立て直す時間は必要だ。
が、抑圧や束縛から解放された欲望というのは下衆な悪意や金の亡者よりも恐ろしい事を知らない。
何処までも純粋に、何処までも狂気で、何処までも遠慮と容赦を知らず、純粋で強い。
旅行の道中・行った先で
旅行先で事件を呼び込む名探偵もかくや。この商人は寧ろ
副会長が後々地獄を見る事は確定した。
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