事件は始まる愉快に行こう2
叫び声を聞いたシェリー君の表情が険しいものに変わる。
「緊急事態につきこれにて失礼。」
叫び声で動揺する4人の隙間を縫って声の元へ。
「お、オィ!話は未だ終わっちゃいねぇぞ!」
「お前が行く必要はない。戻れ。」
「あぁ、君はここに残って。僕達が処理するから君の出る幕じゃ無…」
3人がハッとなって手を伸ばすが、触れられやしない。
こちらの意志があってこの場に留まっていただけ。警備官でもなければ騎士や傭兵でもない素人連中が数人で囲むだけならば、それは拘束でも障壁でも邪魔でも何でもない。
地面の中に沈み込むように姿勢を低くして前のめりに。視界から急に消え、そのままの姿勢で静かに走っていくシェリー君を誰も捕らえる事は出来なかった。
声の主は集会所の前に居た。
宴に出ていた村人の中には居なかった。そして、一見して顔面蒼白、眼球は常に動き回り、狼狽はしている。が、男の体には打撲や出血といった負傷は見られなかった。
かと言って周囲に人影は無し。声の主は彼だ。
「何かあったんですか?」
駆け寄ってきたシェリー君の問いに男は手を胸の前で震わせ、あちこちを見て、まともに話せる状態ではない。が必死に言葉を絞り出してシェリー君に助けを乞う。
「えっと、苦しそうな男が森の入り口前で死んででて、うめいていていて、えっと……兎に角手を!」
『森の入り口近くで男が倒れている。その男は苦しそうに呻いており、彼一人では診療所に運べないから手を貸してほしい』と。
「んー?今の声どーしたの?」
集会所に居た村人が外に出てくる。不安も入り混じっているが基本野次馬根性丸出しでぞろぞろと出て来た連中の先頭には孫娘。
「どうやら森の入り口近くで急病か怪我人が出たようです。一人では運べない様ですので人手を。」
「お?そりゃマズいな。
ドクジー、急患!出番!」
孫娘がシェリー君と男の様子から事態の緊急性を察して集会所の方へと大声を上げる。
「おー?食あたりか?それともチビ共が
野次馬が邪魔で老医師は事態がひっ迫しているとは露程も思っていない事が呑気な口調から伝わる。
「それは無いでしょう!
もし子どもならこの方は一緒に運んで来た筈です。それをせずに助けを求めに来たという事は少なくとも大人ないしは近い体格の方で倒れている場所から動かせなかった可能性が高いです。」
狼狽している男は『服越しに解る程筋肉質で巨漢』という程では無いが、6~7歳程度の子どもなら楽に運んでここまで来られる程度の体躯はある。森の入り口に居るのは少なくとも自分では運べないと判断する体躯の持ち主だ。
更に言えばこの男は『森の入り口近くで
もし子どもであるなら『子ども』と表現するところだ。倒れているのは成年ないしは判別が困難な若者。
シェリー君もそれが解っているから既に話しながら懐の風呂敷に手を伸ばしている。
「おぉ、それは一大事。
オーイ、お前さんは先に行って様子を見といてくれ。」
老医師にも現状のひっ迫が伝わった。
「さーて、オバケが出ませんよーに。」
これから行く先を少し想像して顔を顰めた孫娘。そして顰めた顔を諦観の顔に変えて走りだす。
それに並走する形でシェリー君も急ぐ。
「オーイさん、私も一緒に行きます。」
孫娘の諦観顔が驚愕に塗り替わる。
「えっ……いや、流石にモリーは待っといた方が………」
「学園で一通り医療に関して学んでいるので応急処置程度なら出来ます。本職の方が来るまでの時間稼ぎなら。案内をお願いします。」
「…オッケ。急ごう。」
4人の若人が集会所の入り口に来る頃には、シェリー君と孫娘は既に集会所から見えない地点を走っていた。
「でしゃばりだな…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます