事件は始まる愉快に行こう1

 閉鎖社会は腐敗する。

 それは学園で目の当たりにしてきた。風通しの悪い閉ざされた場所はものを腐敗させ、新しい空気を拒み、閉ざされ歪んだ世界を作り出す。

 それは学園という箱だから起こる訳ではない。

 閉ざされた村。しかも数年前までは栄えていた自覚のある場所。そこでも起こる。

 しかも栄えていた事が呪いとなって現在現実の足を引っ張る。

 『あの頃をもう一度。もう一度自分達はあの輝かしい状態になれる。戻れる。戻るんだ。』とね。

 『だから、外部から来た人間は必要無い。』

 『自分達だけであの栄光を掴んだ。だから自分達でまた掴む。』

 『他の輩は必要ない。だから邪魔をするな。』となる。

 取るに足りない相手であればそもそも警戒心を剥き出しにしない。威嚇さえする必要は無い。

 目の前の愚かな若人達はそれに気付いていない。

 「世間も知らねぇガキがよぉ、一体何しに来たってんだよぉ?

 年下の、しかも今日来たばかりの名目上は『客人』を相手にする顔と口調ではない。

 「御貴族様かと思ったらタダ飯喰らい。余所へ行け。お前は要らん。」

 そういう事だ。貴族の令嬢かと思っていたら平民が来て、使い物にならなそうだからと人目が無い事をワザワザ確認して、ご丁寧に見張りを一人立てて、凄んで見せている。

 「おいちょっと、お前ら言い方考えろよ。

 他二人がシェリー君相手に掴みかかろうとした所で一人が間に割って入った……様に見せている・・・・・・・

 「あぁ、ごめんよ。俺達は自分達で如何にか出来るから別に助けは求めて無いんだって言いたいだけなんだよ。

 別に君一人が来たところでこの村が変わるなんてないし、俺達は自分達の力でこの村を立て直せる力がある。だから別に誰かに助けて欲しい訳じゃないんだ。分かるだろう?」

 にこやかな青年が優しく語り掛ける。他二人の脅迫もどきを敢えて止めずに最後まで言わせて、その後で丁寧に語り掛ける。

 自分だけは違うとでも言いたいのか?それともこうすれば話を聞いて貰えるとでも思っているのか?

 この中でこの軽薄な笑みを雑に張り付けた男が一番目障りだな。

 「過不足無い村に来ても何もする事はない。だったら、何処か他の落ちぶれた村でも紹介して貰ってそっちに行った方が建設的で無駄が無いだろう?そうだ、そうしよう!

 もし、森を抜けるのが怖いって言うなら、僕らが街道まで責任持って送り届けよう。

 判断は、早い方が好ましいと思うんだけど、どうかな?」

 自身の考えこそ絶対。正しく、間違わず、最適だと思うが故に自分の考えを疑わず、論拠無く自信に溢れている奇妙な人間の特徴が口調にありありと現れている。

 ああまったく、ここの危機感の無い痩せ蛙達は、自分達が捕食出来るナメクジを見た事はあっても自分たちを捕食出来る蛇は見た事が無いらしい。

 目の前の蛇は毒牙なぞ無くともナメクジ諸共君らを一呑みに出来るというのに……。

 「ケガぁしねぇ内によぉ、とっとと出て行った方が身の為だぜぇ?」

 シェリー君の肩に一人が手を掛けようとした。

 さて、『瞬時に相手の両腕の関節を外し、それを相手が理解する前に整復(脱臼を元に戻す事)してしまう』というちょっとした隠し芸を見せてやろう。

 幸いここには腕が八本ある。見本を見せても練習台のお釣りが出る。

 なぁに、失敗しても腕の良い医者が居る。過不足無いし、助けも必要無いのなら、腕が一時期使えなくなった程度は誤差にもならんさ。

 指先がシェリー君の肩にあと2㎜で届くところでそれは起きた。始まったと言っても良い。




 「誰か来てくれ!助けてくれ!大変だ!人が!」

 慌てた男の声が響いた。

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