宴は始まるすぐ終わる2
宴は始まり、太陽は空高くから徐々に落ち、皿から立ち上る湯気が無くなり、料理もなくなって来た。
最初の頃は大人連中が世間話をして来たが、突進するが如き勢いの子ども達に蹴散らされ、シェリー君は今まで見聞きした外の話をしていた。
無論、
最初こそあちこちに目線を反らし、動き回り、落ち着きが無かった子ども達 だが、外でも中々お目に掛れない冒険譚に興味を惹かれ、心奪われ、最後には噛り付いて最前席で聞き手に回っていた。
『最前席』というのは当然『最後席』もある事を意味する訳で……
「大丈夫なのかい?そんな熊を相手に…」
「あららー、どうするんだね。」
「今の学生さん、凄い。」
大人達の一部が子どもの後ろに座って聞いている。
無論シェリー君にはある程度の話術技能を教えている。日常の説得から弁士・吟遊詩人として稼げる程度から一財産掠め盗って幾つもの人生をドミノの様に一度で連鎖的に破綻させる詐欺にまで使える話術だが、今回はそれの恩恵だけでこうなっている訳ではない。
『未知の刺激』
外界との繋がりは絶たれ、陸の孤島と化しているこの場所では、『外の世界の刺激』というものは海を隔てた先の大陸の薬草にも並ぶ程の凄まじい価値を持つ。
孫娘が度々口にしていた『退屈』は伊達では無い。
日常に変化が無く、同じものばかりを見ている。まるで虜囚か監禁の被害者。
そんな者が非日常を得れば心奪われる。人間は原則好奇心という魅力から逃れる事は出来ない。
まぁ、しかし。例外も居る。
『4人』
敵意に満ちた目で見られている。
敵意を向けているのは座してシェリー君の話に耳を傾けている者ではなく、その奥。集会所の端の卓で顔を寄せて話し合いながらこちらを見ている4人だ。
年齢の幅は10代後半から20代後半、男性。こちらに気付かれていないとでも思っているのかチラチラこちらを敵意剥き出しで睨み付け、また卓の方に顔を寄せて何かを話し合っている。
無論、敵意であって害意や殺意の類ではない。まぁ、そもそもそんなものを向ける事は許さないがね。
で、何もしない素人の敵意程度なら放っておいても構わない。が、向こうが放っておくかは別の問題だ。
様子を窺っていた内の一人が立ち上がり、ゆっくりと、こちらを睨み乍らやって来た。
弁士シェリー君の話に夢中で観客達はそれに気付いていない。
それ以外の遠回しに見ている連中は気付いていないか見て見ぬフリの二つ。
(表に出ろ。)
顔を斜め上に素早く動かしてそう合図する。当然、シェリー君が顎で使われる様な理由は無い。それを無視しても何ら問題は無い。これらの起こす問題程度、後で幾らでも潰せる。
「さて、今日はもうたくさん話しましたので、ここまでといたしましょう。」
シェリー君は話を終わらせた。
それに対しての観客は歓迎故のブーイング。賞賛故にアンコール。拍手と同時に『もっと』の声が聞こえるが……
「一度に話しては楽しみが減ってしまいます。明日また、お話いたしますので、今日は、ここまで……。
ベッドの中で、是非続きを期待してお休み下さい。
でも、明日を元気で迎えるためにぐっすり、おやすみなさい。」
正直、この歓迎 で済んでいれば問題無く終わっていたのだが、やむを得ない。
シェリー君は期待と『もっと』の声を後ろに集会所から出て行った。
3人の男達は既に外に出ている。
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