指導/始動する淑女
「成程成程、いやはや、近頃の学び舎とは素晴らしい試みをなさいますな。」
「ぶっ飛んでるよねー、これ考えた人。
ドクジー、外の学校のこれって普通なの?」
ドクジーと名乗った老医師は片足を引き摺りながらも素早く杖と動く片足を駆使して我々の歩みと変わらず、しかしそれを気付かせぬ様に静かに、素早く、体の軸を揺らさぬ様に歩いている。
「いやいや、これは中々無い事かと……
アールブルー学園という聖域には縁もゆかりも無い身ではありますが、その様な思い切りの良い試みなぞついぞ聞いたことは無し。
これを考えた御仁は教え子の力を信じ、それ故に厳しく毅然と向かい合って怖い様に振る舞う様にしているのでしょうな。いやはや、強く美しい御仁なのでしょうな。はっはっは。」
老医師の言い方 は半分合っている。
かの淑女は容赦無く教え子に対して振舞っている。
威圧感や態度は本人の性質だけではなく『どう見せるか?』と突き詰めていった姿が
が、全てがそういう訳ではない。
見せる振る舞いの下地には当然本性が在る。
『本質から毅然と厳しく容赦無く、淑女に相応しくないものに鞭を振るう。』が正解だ。
そして最後に、『強く』の部分だが、かの淑女は強い。
シェリー君が会長を務めるモラン商会の副会長、あの傭兵が事前準備をして立ち向かった所で一方的に蹂躙される。
そして、今の状態のシェリー君が今持つ手札を全て使っても悉くを相手に返り討ち出来る。
全く、凄まじい淑女も居たものだ。
「非常に尊敬出来る、『淑女』の姿を体現した方だと私は思っています。
我々学び舎に居る者はかの方と同じ場所……いえ、そこより更に高みに登る事を目指しています。」
シェリー君の目には真っ直ぐさしかなかった。
まったくもって……その考えはどうなのかね?あの学園にかの淑女を恐怖の対象ではなく畏怖の念を抱く者がどれだけ居ることか……
「こちらにマニュアルを用意しました。
渡されたのは携帯辞書にも見える厚さの冊子。
「あの……」
ズシリとした重みと威圧感で体が潰されそうになりながら口を開こうとする。
「何かご質問がありますか?」
本人は睨んでいる訳でも怒っている訳でもない。
睨まれる理由も怒られる原因もこちらには無い。無い筈。無いと信じたい。
それでもあの目で捉えられると体が硬直する。
まるでお伽噺の『魔法の眼』に見られたかの様に……
「学園長先生は一体どちらにお出掛けの予定でしょうか?
特にその様な予定が在るとは聞いていなかったのですが……」
最後まで言葉が出ていたかは分からない。途中から声が掠れて萎んでいった気がする。
「当然、校外の生徒の視察です。他に何があるというのですか?」
その言葉に返せる言葉が思い付かなかった。
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