仮家への道中


 どこもかしこも古い民家民家民家。戸が外れていたり屋根が吹っ飛んでいたり、壁の木材が腐って穴が開いていたり……ということは無いが、ところどころ蜘蛛の巣が張って、見る建物建物が古いものばかり。

 村に入って直ぐの『廃墟』という偏見も相まって廃れているという印象を抱く様な状態だ。


 「さーて、用意した仮家なんですが、ちょーっと村の端っこの方にありまーす。

 他にも候補は色々あったんですけど、そこが一番ボロくなくて良いかな?ってことで。ご容赦して下さい。

 勿論、ちゃんと掃除はしておいたので、安心して下さーい。」

 「いえ、とんでもありません。わざわざ有難う御座います。お手数をお掛けしました。」

 「あー、そんなにかしこまらないで下さいなー。多分同じくらいの歳でしょ?で、こっちはわざわざお願いして来て貰ってるんですから、もっとフランクに砕けて下さい。

 三ヶ月、多分やる事もそんな無いですし、仲良く楽しくやりましょー。肩肘張ってたらつかれますよー。

 というか、こっちが口調崩しちゃうんで、合わせてくださいなー。」

 「はい、努力してみますね。」

 緩やかに歩いて行く先は村の外れ。

 先程までは地面のあちこちから岩が覗いていたが、今歩いている場所は土に覆われてそんな事が無い。

 茶色一色の地面だけ広がっている殺風景。この村で清掃やら花を植えて『淑女の貢献』は出来ない。

 「やー、キノコ採りと子どもの世話と牛豚鶏を放すの連続ばーっかりの毎日で退屈して、もう自分がおばあちゃんになっちゃったんじゃないかと思ってたところなんで、助かったー。」

 「この村ではどんなキノコが採れるんですか?」

 「いろーいろっ。

 名前なんて知らないし、この辺の毒キノコは大半触れたらかぶれる系なんで『かぶれないキノコが食べられる』で考えれば大体OK。

 後で一緒に採ろー。それで貢献は十分。若者の少ないこの村に若者が来て色付いた段階でもー、私は万々歳。」

 両手を上に、というかホールドアップ。そして首を前にカクリと曲げる。……中々にフランク…というよりもやる気のない孫娘だ。

 これで他の傲慢で『地軸=自分』なお嬢様連中が来ていたら一体どうする気だったのかね?

 「キノコは何処で採れるのですか?」

 「森。

 と言っても例のあの森では採らなくて良いよー。

 村のじっちゃんばっちゃん連中も近場ならちょっとばかし入るけど、街道側に深入りはしない。

 ま、安心して。あの件以降村の人間が森に喰われたとか放した牛や豚が消えたとかいうことは無いから。」

 そう言いながら道の横にある他より少しだけ立派な…と言っても他同様古い手入れのされていない建物を指し示す。

 「あ、そこ村で唯一の医者がいる診療所。

 万一キノコにあたったらここに来て。多分何とかなる。ここで何とかならなかったらもうダメ。」

 「解りました……」

 「あ、だいじょーぶ大丈夫。最近は食中毒起こってないから。最近診療所が使われたのなんてじっさまがのど詰まらせて死にかけた時だけだから。」

 「おいおいおい、少し前は起こっていたのかね?」

 「……の様ですね。」

 シェリー君の顔が先刻の自称植物学者の様に変わった。

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