シェリー君以外の客人


 集会所を出て村を歩く。

 「話は聞いてましたよー。学園の課題でここに来たとか?」

 間延びし、気の抜けた声で話しながらゆったりとした歩みで誤差廃村を行く。

 時々建物を紹介するが、その殆どが『元○○』と紹介され、現廃墟。

 運用する用途が無い、処分する手間と金を掛ける事が出来ない、そうして廃墟が幾つも出来上がり、村全体が朽ち果てた建物ばかりに見えている。

 「その通りです。淑女として貢献してくるように。との事でこちらにお邪魔しました。

 部外者の小娘に出来る事は限られているかと思いますが、微力ながら全力で頑張りますので何卒宜しくお願いします。」

 「はっはっはー。何を言ってるんですかー。

 アールブルー学園なんて私でも知っている有名学校ですよー。そこに入るなんて凄いじゃないですかー。

 ここに居る人間なんて浅学ばーっかりで、考え無しに勢いで色々作ってラクに儲けようとして、噂で潰れてなーんにも残らなくて、で、そのまんま引きこもるハメになっちゃったんですから。

 ちょっとばかり外の事を教えてやって下さいなー。

 こっちは相手されただけで万々歳。一週間前に他のところからお客さんが久々に来て、村の小さい子達も新しい遊び相手が出来たって喜んでますよー。

 他に新しいお客さんが来るって言ったら飛び跳ねてましたよ。

 だからそんな肩肘張らないで、てきとーにやって貰えれば学園さんにはこっちから上手くいっておきますよー。」

 力の抜けた話し方ではある。

 歩みに機敏さは無い。

 しかし、荷物を持った右も左も分からない場所に放り出された相手に対してはある程度は有効だ。それよりも……

 「お気遣い有難うございます。それで、話で気になった事があるのですが、私以外にもどなたか来客が?」

 こんな場所に何の用があるのだという話だ。

 「一週間前から急に来て、金を払うから暫く泊まりたいって。

 こんな所に珍しいですよねー。何の用があるんだって話です。

 まー、植物学者さんらしいんですけど、この辺の植物がどうも珍しいものらしくて、調査しに来たらしいですよー。

 って、噂をすれば向こうにいる人でーす。」

 そう言って指し示した方向には男が一人。

 長身で細身。困り顔だったのがこちらを見付けて安堵の表情に変わって駆け寄ってきた。

 「あー、丁度良かったオーイちゃん。

 借りてる家の鍵を失くしてしまってね。締め出されてしまったんだ。少し様子を見てくれないか?

 って、すまない!その荷物、お客さんだったか。てっきり村の人かと…ああ、すまない。僕も他所から来た者でね。

 植物を研究している植物学者のウルス=グレイナルという者だ。ここの森を少し調べているんだ。ここの木は独特でね。研究対象としてとても興味深いんだ。ああすまない。手は汚れているから握手は遠慮させてもらおう。よろしく。」

 背中にはリュック。深緑色の服はあちこちに灰色の斑点が付き、靴も同じ色の泥だらけだ。

 「まー、不格好な木ばっかりですけど、建材としてはちょー有能みたいですからねー。

 お陰で修繕ほったらかしにしても家が全然壊れないから古い家ばっかり。おかげで村のボロさが加速。はっ、はっ、はー。」

 相手の自称植物学者はそれを聞いて何とも言えずに苦笑いをしていた。

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