校外イベント説明会5

 「自分で商会しょ(う)かい持(っ)てる場合バ イ、それは使て良(い)ですかね?

 親の商会のグル(―)プに加入かにゅ(う)してますが、自分が会長や(っ)てる商会持てます。」

 ワザワザ明らかに返答が『NO』の質問(要求)をした理由。それは次の質問の『YES』を引き出す確率を上げるため。

 古典的な小狡い商人のよくやる手口。今回、前例が無く何が起こるか分からない状況であり、自分の持つ切り札を使える可能性があるとなれば少しでも確実を上げようと躍起になるのも道理といえば道理だ。

 まぁ、この場合はそれをやる意味は無いのだがね。

 「今回特別にそれを許可します。あくまでそれは貴女の力。ならば使う事に異論は有りません。他の皆さんも同様に、己の持つ縁故や才能、力を使う事を罰することはありません。あくまで自分の力であれば大いに使う事を推奨します。

 ただし、くれぐれも自分の力に限ります。

 ミス=バックドール、他商会との取引に怪しい点があった場合や家族間での公平性に欠ける取引が見られた場合、厳罰に処しますのでそのつもりで。」

 自分の力を如何に使うか、如何に自分が出来る事で目的を果たすかが見たい。ならばそれを止める事は今回の目的に反する訳だ。

 「成程、有難御座います。」

 商会嬢の質問が終わった。

 「他に何か質問はありますか?

 今の話を聞いて疑問が増えた者は?」

 教室中を見回し威圧を強める。

 空気感が説明会というよりは尋問会に近いものがあるな。

 「あのぉ、少しよろしいかしらぁ~…?」

 気の抜けた声の方向へ目を向けると、眩しい程白い、絹の様なキメ細かな肌が目を刺した。

 海を閉じ込めた様な蒼い目。

 人の持つ毒気を丸ごと抜かれるような柔らかく優しい口調。かの淑女相手に裏表の無い悪戯っ娘の様な微笑みを向けるその少女の名前は…

 「『ミス=コルネシア=アルヒィンデリア』なんですか?」

 毒気を抜かれる声を相手に毒こそ無いが刀の様な鋭さいつも通りを向ける淑女。

 正反対…とも違うが、異様な雰囲気が作り出される。


 『コルネシア=アルヒィンデリア』

 『切れ者宰相』・『王の懐刀』・『千の屈強な武官を倒すよりもあの一文官を倒す方が難しい』・『現国王の偉業の一つはクロックス=アルヒィンデリアを宰相に取り立てた事だ』とまで言われるこの国の現宰相クロックス=アルヒィンデリアの娘だ。

 ただ、本人の印象は『切れ者』というよりは『箱入り娘のお嬢様』。実際にその通りなのだがね。

 「えーっとぉ……三カ月間校外でぇお泊りするって事はぁ、授業の方はどうなるのかしら~?

 カリキュラムってぇ、間に合うのかしら~」

 「後程課題を提出します。

 校外でも学習は忘れないように。

 テストは何時も通りの範囲の広さにして手心などは一切加えませんのでそのつもりで。」

 「はぁい、何時も通り、がんばりま~す。」

 少しだけ、辺りから声がし始めた。

 悲壮感と僅かな絶望、そして非難と不満の声。

 「お静かに。異論は認めません。

 校外で学び、日頃の勉学を忘れぬ様に精進なさい。

 質問が他になければ以上とします。」

 不満も異論も認めないという無言の圧を放ち、姿勢を一切崩さぬまま教室を去っていった。



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