モラン商会副会長は亡い
紙飛行機の術式はある程度摩耗するものの、一度術式付与に成功した紙を作れれば数往復は最低でも使い回す事が出来る。
そして、今のところ目的地を二ヶ所しか指定出来ないものの、学園と商会の往復、はたまた密偵が商会とのやり取りにしか使わない現在においては十分使えるシロモノ。お陰で連絡は十分に取る事が出来、今のモラン商会の現状をある程度見る事が出来ていた。
少し前からシェリー君にこの近辺の地理を調べる課題を出して、動植物の分布や犯罪の起こり易い場所の解析をさせて、それを私が確認した上で連中に商業ルートとして使わせていた。結果、あの商会での賊の被害は無く、賊以外の犯罪被害は徹底的かつ網羅的に対策が為されていたお陰で順調そのものだった。
が、それ以外の場所で賊が出て馬車ごと人間を誘拐する事件が発生。物騒という話が手紙で送り届けられ当然の様にシェリー君が奮起。
こちらからも賊の持っていた首輪に対抗する魔道具の設計図を送る等のある程度の協力をして、今来た手紙がその顛末に纏わるものだ。
「……よかった、無事、解決したみたいです。本当に、よかった。」
手紙を見て胸を撫で下ろしている様を見る限り、結末は悲劇ではなかった。
本件でシェリー君が心配していた点は主に5つ。
一つ目は賊の制圧で商会に被害が出ること。
二つ目は人質の保護失敗。
三つ目は賊の確保失敗。
四つ目は今回の黒幕、サイクズル商会の制圧失敗。
そして五つ目。これが最も心配していたことだが、サイクズル商会の下っ端従業員と人質の行き先だった。
サイクズル商会は賊と繋がりがあったが、それは所属している全員に当てはまっている訳ではない。表向きは真っ当な商業をやっていた。
人質連中は死か協力という選べぬ選択肢を突き付けられていた。
その両者に対しての情状酌量。そして、問題が更にある。
彼らがたとえお咎め無く解放されても戻る場所が無い。
主要な幹部が抜けたサイクズル商会は実質消滅。
そして、咎めの無かった人間は他の商会では雇われずに新人教育もされずに盗賊の片棒を担がされた研修商人とコネや経験や成長途中の下っ端商人の二種類。
裸一貫ゼロの状態、どころか最悪盗賊の一味とでも噂されていればそれ以下、マイナス状態から始めなければならない。そんな状況でいきなり投げ出されては大半の人間がどうにもならない。
まぁ、モラン商会会長が次に何を考えるかは、想像に難くあるまい?
手紙を覗いてみたが、序盤の文こそ一商会の副会長らしい理論騒然とした文章が並んでいたが、中盤から文章が荒れ始め、最後の四文は利き手が使えなくなって逆の手で恨み文が書かれていた。
そう、モラン商会は今、空前の人員増加&新人教育ブーム。
阿鼻叫喚になっていた!
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