モラン商会人員増加計画完了

 やめてくれ

 部屋の扉が開く度に大量の書類、書類、書類、書類、書類!

 鳩の形をした手紙の指示の通りに従業員を動かす。すると何故か遠方の縁もゆかりも無い商会や行商人、組織、業者、職人との繋がりが生まれ、稀に書類の中に感謝状やお礼の手紙が紛れ込んでくる。

 そんな手紙の内容に胸を熱くしていたいところだが、そんなことをすればまた部屋の扉が開いて書類の山が押し寄せてくる。

 気を緩めれば仕事の量が倍増してあっという間に圧殺される。

 気を緩めなくとも仕事の量と厄介さでこちらは徐々に摩耗していく。しかし向こう仕事は摩耗せず、勢いも衰えず、何故か時間に比例して増えてくる。

 魔獣の波に襲われて十日十晩死が何時でも隣にいたあの頃とて、ここまで容赦無くはなかった。

 ああ、人が足りない。

 モラン商会はそもそもあの学園で殺された筈の人間が、とある少女の力で運良く生き残った寄せ集め。

 人が足りない(11人)。経験も足りない(経験者0人)。何故か副会長の前職が傭兵。

 会長は現役学生で商会には居ない(来た事さえ無い)……だというのに何故か流通とそれ以外のあらゆる情報に滅法詳しい指示が異様に的確な凄腕。

 良くも悪くも会長が凄腕過ぎる。

 先ず連絡に使われている紙の鳥。コイツがあまりに情報アドバンテージが大き過ぎる。

 悪用のリスクを考えて非売にしているが、このコストで密に連絡を取り合えるのは画期的が過ぎる。少なくとも俺の知る学生が作り出せる術式ではない。

 そして、この前指定された場所へ草刈り鎌を持って行ったら何故か最近不足している薬草の群生地に当たり、採ってきた薬草を薬屋に売り、場所の情報を売ったら薬屋との取引が出来た。

 更に薬屋の取引で得た解毒薬を海沿いの漁師街に送るような指示があった。

 何故かそこでクラゲが大量発生して解毒薬が飛ぶ様に売れ、涙ながらに感謝されて干物を大量に持たされた。同時に取引も生まれた。

 あの会長、学園に事実上軟禁状態なのに何故か外の状況を知り過ぎている。

 そんなお陰で商売は上手く回っている。利益は優先していないが、それでも商品の入手がタダ同然や安く手に入る場合が多く、黒字が続いている。

 お陰で実働の実質トップに立っている副会長の俺の負担が大き過ぎる。

 頼む、どうにかしてくれ。


 そう思っていたら、会長から助け舟が来た。

 『サイクズル商会の残った連中と人質をまとめて雇え』との指示だった。

 人手が、人手が増える!

 やった、休める。もう契約書の確認をしながら店番をしなくて済む。

 もう書類の山をベッドにしなくて済む。もうインクで手が真っ黒になって病気と勘違いされずに済む!

 もう、あんな地獄の日々からは、解放されるんだ!

 事件後の新人は解放されて恩を感じている上に商売が出来るという事で皆モチベーションが高い。

 イタバッサは経験を活かして表の仕事を回してくれている。アイツは多分直ぐに幹部試験が会長から出されるだろう。



 ああ、夢のようだ。





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 モラン商会幹部試験概要:一定の信頼を商会から得た時、会長から設計図が渡される。それを完成させる事が出来れば合格。晴れて幹部となる。

 ちなみにレンの持っていた『百手類』がそれ。

 それぞれの特性や性格にマッチし、かつ制作難易度が高いものを会長から渡されるため、試されると同時に実力の増加も出来るパワーアップイベントでもある。


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