サイクズル商会会長の逃亡劇~五回目の商会~

 サイクズル商会の破滅はこれが初めての事ではない。

 既に四回、商会が潰れた事がある。


 最初は一緒に商売をして互いに支えあって助け合って商売をしていた友人兼共同経営者がある日消え、全財産と特許を一緒に失い、借金だけが残って当然商会は潰れた。

 二回目はある日現れた強盗団によって金目の物を全て奪い取られ、力の誇示のため半分面白半分で笑いながら店に火を付けられて商品も約束手形も懸命に貯めた金も皆に知られるようになった店も何もかもが炭と灰になった。

 三回目の時は、仲間の商人が良い儲けになると力説して、儲けた証拠をしつこく見せられて、正規品によく似た不良品を半ば強引に押し付けられて大損。おまけに不良品を売付ける悪質業者だとこっちを警備官達に売り付けてヤツのせいで悪徳商会として潰された。

 四回目は、忌々しい、三回目の後、マイナスから稼ぎ始めて、商売が順調になってきたと思ったら、どっかの無名貴族が頼んでもないのに踏ん反り返って店にやって来て、『当家の紋章を貸してやるから光栄に思って、有難く、謹んで、その敬意売上の9割をを示せ黙って寄越せ』と来た。

 光栄に思って、有難い話だが、謹んでお断り申し上げた。

 何処の世界に名前を貸すだけで売上の大半を巻き上げてく強盗が居る?

 こちとら真っ当に税を納めていた。挙句にまだ持ってく気な訳だ、ロクなもんじゃねぇ、虫唾が走る。

 で、丁重に謹んでお断り申し上げた結果、無礼千万だの恩知らずだの卑しい金の亡者だの悪魔だのと散々店頭で暴れ散らして店の品物をパーにした挙句、裏から妨害して付き合いの業者やら商人やらから爪弾きにされて、夜逃げ同然で商会が無くなった。



 「ハァ、ハァ…五回目かよぉ。ったくよぉ……。」

 サイクズル商会会長は水が靴の中を濡らしても尚足を止めなかった。

 汚水を吸って重くなった靴を持ち上げて水音を人工の洞穴に響かせる。

 息が上がり、その音だけが反響して自分の老いを突き付けてくる。が、その音だけ聞こえる状況に安堵し、重い足を前へ前へと進めさせる。

 背負った今の自分の全財産が重い。が、身軽でない自分が今までの自分と違うと教えてくれる。

 あの店には幾つも秘密の抜け道を用意してあった。バカバカしいかもしれないが、それがあれば少なくとも二つのサイクズル商会は無くなっていなかった。と考えているからだ。

 そして、今自分が足早に進んでいるのは作らせた・・・・秘密の抜け道ではない・・・・・・・・・・

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