コズマ=ボンノーの伝説 5章

 『農家』の手下が使った爆炎球。これは対人向けではないが、実際使用相手は人以外が大半である。

 『農家』達は違法植物や危険な植物を栽培しているだけでやっていることの本質は植物の栽培にある。

 栽培しているモノがモノだけに栽培している場所は秘境に近い。人は居ないが逆に獰猛な害獣は歩くたびに出会う上に栽培している人を襲う危険な植物相手に戦うこともある。

 爆炎球はそんな場所で人外を制圧するために使われている。農家の幹部は対人より対人外に特化している。

 今回炸裂したソレは人外相手より少し火力を落としているものの、人を遺体も残さず始末出来る程度には火力がある。

 実際に爆炎球が炸裂した後の倉庫内は汗ばみ立ち眩みする程の熱気に包まれていた。


 「『石弾』発射。」

 爆炎の光を読んでいた『農家』の手下は熱された飛礫を爆炎の中心に向けて放つ。

 これも石を飛ばすだけと侮れば、毛皮を裂き、肉を抉り、樹皮を貫き、蔦を切断される。

 本来は熱に弱い危険動物や植物相手に熱で怯ませ石弾で止めを刺す戦略を人間に向けている。


 未だ光と熱は引かない。この熱と光は生態系において人の上を行く獣や植物を狩る。人間が食らえば確実に遺体も残らず死ぬ。

 だというのに、厭な予感がする。無い筈、もう焼かれて無くなっている筈だというのに、何故か中心に人のシルエットが見える。

 燃え残りだ。絶対にそうだ。


 「手前ら、嫁と子どもを守るって俺の愛を舐めてるな?」


 燃え残りの死体がまだ煌々と燃えている炎を割って両手を伸ばして、喉を掴む。指先が首に食らいき息が詰まる感覚と足元から地面の感触が無くなる。

 魔法?何かの魔道具?幻覚?指先から伝わる熱は今の今まであの火の中に居た。そして、よく見れば全身にさっき撃ち込まれた石弾の残骸が残ってる。

 石弾の残骸、指先の熱、これは魔法や魔道具で受けた訳じゃない!信じられないけど生身!

 目の前に居る人間は、やっぱり…

 「怪物、もう諦めなさいなってこと……」

 「………………」

 農家の二人、混じりけの無い素手で鎮圧。

 行商人の手下達は爆炎球の余波で行商人諸共制圧済み。

 残ったのは、農家ともう一人。

 農家は既に腰を抜かし、もう一人はその目に闘争心が全く無い。

 「ちょちょちょっちょととちょっと!ナニアレ?ちょっと?なんで生きてるの?大陸の怪物だってあんなに強くないわよ?え?え?え?とととちょっと?」

 人外の怪物を相手にしている筈の農家が腰を抜かしている事実。

 流石に畑の近くにもこれ程のものは居ない。

 「逃げましょう。」

 残っていた手下が農家を背負う。闘争心は無い、が、決して目の前の怪物からは目を離さない。

 「ちょちょ、ちょっとぉ?」

 怪物を前に手下は全力で逃げる。それを怪物は見逃す。



 ボンノーのこの行動。農家の二人を逃したことで、恐怖が伝染していくことになる。

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