苦労人の祝福
「良かったんですか?あのお酒、葡萄酒よりも高いんじゃないんですか?
副会長にあとで勝手にやるなって怒られたりしませんかね?」
爺さんが帰った後、店頭から売り切れた補充分の木箱を運びながらキリキがイタバッサにそんな疑問を投げかけた。
額が幾らだったかはここからだと分からなかったが、イタバッサが爺さんから受け取った代金はチーズ一塊と酒一樽分の硬貨には到底見えなかった。
「キリキさん、それに関しては大丈夫です。副会長から商品の扱いに関しては許可を頂いています。
それに、ダンナーさんは貴族の方から相当仕事を貰ったようですので、また今度、あのお酒の感想を聞く時にもっと稼がせて頂きます。」
不安など何処にも無いとばかりに笑みでその疑問に返すイタバッサ。
「貴族?そんなこと言ってましたっけ?」
キリキが首を傾げている。アイツが聞き逃したという可能性をいつもなら考えるが、俺も聞いていないし、確認したところ、そんなことは一言も言っていなかった。『大仕事が終わった』とだけだ。それが一体何なのかはヒントすら口にしていない。
「貴族とは言っていませんでしたが、私がその話を聞いたとき、『ちょっとした大仕事』と言葉を詰まらせてはぐらかしていましたね。ワイン三樽を買って、それでもまだチーズ一塊と酒一樽を買えるほどの、大仕事の内容をね。
一度この近辺の商会やお客様、商会の方々の情報を目を通させてもらいました。
ダンナーさんの所の大工衆は確かに規模は大きいです。ただ、あの葡萄酒を四樽を消費するには人数が足りません。おそらくお客様が来ているのでしょう。しかも大人数。
そして最近、貴族主体でとある建築物の大規模修復が行われていたのです。
そこで各地から信頼出来る腕の良い大工衆を幾人も集めていたということなので、大仕事の内容で考えられるのはソレでしょう。貴族の方は建築に関わった人間から間取りなどを把握されると防犯上致命的な理由で口止めをする事が多いそうですし、代金も面子があるから悪いものでは決してないと考えて構いません。
であれば、秘密保持の関係から、宴会の参加者はダンナーさんの所の大工さん、仕事に関わった他の地域の大工さんの合同の打ち上げだと考えられるのですよ。
貴族から仕事が回ってくる、仕事を納めるということはつまり、それだけ信頼と腕があるということ。
秘密にしておいても、ある程度仕事をした業者はこうして特定することが出来ます。
そこで情報漏洩などの失態をしなければ信頼を勝ち取って次の仕事に繋げることが出来ます。
今回はいわば先行投資。後々回収が見込めるのでサービスしておきました。
何より、他の地域の方が居るのであれば今の商品は本商会の商品を広めて貰いつつ、次以降も期待出来る広告にもなります。
今のチーズと酒のことを覚えておいて、これからのダンナーさんの動きを見ていただければ……」
イタバッサという男はそこそこ仕事の出来る商人なのだろう。実際、キリキと仕事をしている光景を見てそう思える。
圧倒的に腕力で劣る筈なのに、店頭の陳列作業や荷運びを同じようにやっていてもキリキと同速、否、少しだけ速い。
経験と自身の誇りが自身の最速を叩き出している訳だ。
だが。
「
キリキは半分位のところで頭から煙が出ていたぞ?
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